上腕痛・項背痛を伴う頸椎ヘルニア

50歳代前半の男性が、頑固な肩こりと上腕の痛みに悩まれていた。

もともと、慢性的な首筋の痛みを感じてはいた。
が、2年前より上腕(右肘内側)も痛み出したという。
その後、上腕痛は日に日に強くなり、仕事に支障をきたし始めた。

整形外科では、「頸椎ヘルニア」(頸椎椎間板ヘルニア)と診断され、消炎鎮痛剤・湿布、けん引療法が施されていた。

痛みの程度の波はあるが、起床後の洗顔時に「両手に水をため、挙上する動作がなんとも辛い」と申される。

高血圧症の既往あり(降圧剤服用中)。
平素より眠りが浅く「質の良い睡眠がとれていない」傾向もある。

患者さんは、インターネットで漢方薬が頸椎ヘルニア治療の選択肢であることを知り、当薬局に漢方治療を依頼された。

さて、頸椎ヘルニアに限らず、どんな疾病においても、患者さんと漢方薬の適合性が治療の鍵となる。
その適合性の識別に、当薬局は「糸練功(しれんこう)」という技術を応用している。

東洋医学は、「体表解剖学」である。
頸椎ヘルニアの場合、異常な反応は頸椎の愁訴部に現われる。

頸椎異常は、患者さんのどこ(臓腑・経絡)から起因しているか?
その原因は、いくつあるのか? 一つなのか? 複数なのか?
頸椎ヘルニアへの適合処方は何か?

それらを異常部位の情報を解析し、糸練功で適合処方を明確にするのである。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

患者さんの頸椎ヘルニア(第五頸椎周辺)の解析結果を以下に記す。

1)第五頸椎周辺の反応より

● 葛根湯合R青皮製剤加附子(かっこんとうごうRせいひせいざいかぶし)証 ・・・ -0.2合(A証)
● 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)証 ・・・ 0.4合(B証)

以上の2証が、患者さんの頸椎ヘルニアに深く関わっていると理解されたい。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方薬に適応する治療ポイント(病態)である。
つまり、この方の頸椎ヘルニアは、(A)(B)の2処方により根治可能を意味する。

ここで、注釈を加える。
上記の芍薬甘草湯証(B証)は、当ケースにおいては慎重にすべきである。
なぜなら、患者さんは高血圧症の既往があり、降圧剤を服用中である。

芍薬甘草湯の構成成分:甘草の連続服用による「偽アルドステロン症:浮腫(むくみ)、血圧上昇」の危険性を回避しなければならない。
よって、芍薬甘草湯(内服)の代用として、N・スクアレン製剤(外用)を適用。

1ヵ月後
頸部の痛み:消失、上腕痛:軽度(残存するが改善中)
夜間の中途覚醒がなくなり、睡眠の質が向上する。

2ヵ月後
頸部の痛み:消失、上腕痛:消失(起床時の洗顔にも影響なし)

現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

上記の頸椎ヘルニアの治療例において、漢方の治療開始後 1.5ヶ月 には、頸部痛・上腕痛は完全に消失していた。

頸椎ヘルニアにおいて、急性期では 「葛根加(苓)朮湯」、「桂枝湯と越婢湯の合方」の適合は珍しくはない。
が、慢性期へ移行するに従って附子剤(ぶしざい)の適応が多くなる。

本症例における、葛根湯合R青皮製剤加附子証も、構成中に附子を有し、慢性期に移行した頸椎ヘルニアの可能性が伺える。

附子剤の適応か?・・・否か?
注意すべきは、急性期で未だ熱を帯びた段階で、強熱性の附子剤を適用すれば、治癒どころか症状の悪化を招くだろう。
患部の温度・状態で判別できようが、現実は識別困難なことが多い。

処方決定には、様々な問題をクリアーしなければならないのである。

それらの問題解決のために「糸練功の役割」がある。
糸練功を適用すれば、陰証・陽証の識別は容易である。
陰証の病態(治療ポイント)に、瀉剤を適用することは決してないのである。

また、頸椎ヘルニアには、患部周辺の筋肉攣縮を伴うことが多い。
よって、芍薬甘草湯証の共存も否めない。

ただ、芍薬甘草湯は症状の激しい時の頓服が望ましい。
まして、高血圧症や浮腫の既往のある者への長期服用は避けるのが常識である。

よって、本症例では、N・スクアレン製剤(外用)を代用したのは至極当然の選択である。

これらの危険回避にも、糸練功が役立っている。
以上のように、糸練功による病態解析・適合処方の誘導は、真に有用である。

糸練功への関心が広まり、多くの先生方が活用することを祈念してやまない。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
葛根湯合R青皮製剤加附子散薬+錠剤18,800円
(税別)
N・スクアレン製剤外用12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります