後鼻漏(慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎)

後鼻漏の多くは、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎から誘発する。
咽喉へ流れる鼻汁の不快感の爲に、睡眠障害や様々な神経症状を呈する方もいる。

先日の患者さんも憔悴されていた。

60歳代のご婦人である。
20年前からアレルギー性鼻炎を発症し、継続的に市販の点鼻薬を使用。
慢性副鼻腔炎の既往もあり、耳鼻科に通院。
それ以前には、鼻中隔湾曲症の手術を受けている。

そして半年前、風邪をこじらせ、激しい鼻づまりに襲われた。
点鼻薬も効かず、市販の点鼻薬を止める。
慌てて耳鼻科を受診すると、上咽頭の炎症を指摘され、2週間の投薬にて治療は終了された。

しかし、鼻の奥に膜が張ったように呼吸がしずらい。
後鼻漏も顕著にあらわれ、咽喉にへばりつく鼻汁の不快感で、睡眠が妨げられる。
日増しに悪化する症状のため、不安感、憂鬱感が増大し、食欲は減退。

なんといっても、後鼻漏による咽喉の不快感が耐え難い。
独自でネットを介し、漢方製剤「半夏厚朴湯」、「黄耆建中湯」を購入し服用したという。
ところが、症状は益々悪化・・・。

ネットの情報源から、漢方薬を入手したくなる心情は察せられる。
だが、漢方治療と言うものは、厳密な漢方的解析により成立する。

まして後鼻漏の病態は、至極複雑である。
素人さんがネットの知識で、治癒に至らしめるのは非常に難しい。

患者さんに適合する漢方処方は何か?
その解析方法として、当薬局は糸練功という技術を採用している。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

問診の後、後鼻漏の際に反応が現れる部位(反応穴)を糸練功により入念に確認した。
このケースにおける確認部位は、上下副鼻腔(蓄膿症)と右迎香穴(アレルギー性鼻炎)、そして咽喉の愁訴部である。

解析結果を以下に記す。

○右迎香の反応より
●小青竜湯加石膏合二陳湯(しょうせいりゅうとうかせっこうごうにちんとう)証・・・(A1証)
●Nスクアレン製剤(Nすくあれんせいざい)証・・・(A2証)

○副鼻腔の反応より
●F曲參製剤(Fきょくじんせいざい)証・・・(B1証)

以上の3証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方藥が適応する異常である。

尚、神経症状としての「咽喉の異物感」は、上記の各合数と一致していた。
従って、患者さんの自覚している不快な咽喉の異物感は、アレルギー性鼻炎と、未完治である慢性副鼻腔炎による二次的な症状と推測される。
よって、本症例における咽喉の異物感には、半夏厚朴湯は無効である。

また A1証は通常、煎じ薬である。
が、エキス製剤「H利水製剤とGカプセル製剤」の組合せで代用可能であることを糸練功にて確認した。

早速、H利水製剤とGカプセル製剤(A1証)、Nスクアレン製剤(A2証)、そしてF曲參製剤(B1証)にて治療を開始。

・・・0ヵ月後
後鼻漏:強い
鼻閉:強い(膜が貼っている感じ)
咽喉の異物感:耐え難い(強度の不眠)

・・・1ヵ月後
後鼻漏:軽度(改善中)
鼻閉:軽度(改善中)
咽喉の異物感:軽度(中途覚醒あるも眠れる)

・・・3ヵ月後
後鼻漏:微かに(気にならず)
鼻閉:なし(鼻の通りは良好)
咽喉の異物感:ほぼ消失(良く眠れる)

現在も、漢方薬を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

後鼻漏への漢方薬による改善過程です。

本症例における後鼻漏は、アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の両因子によるものと思われます。

20数年前から発症したアレルギー性鼻炎に対し、血管収縮剤(点鼻薬)を対症療法的に常用したため、薬剤性鼻炎を併発。
その上、風邪による炎症の追い討ち。
こうなったら、市販の点鼻薬は効きません。
漢方的な治療も複雑になっていきます。

患者さんの鼻炎の解析結果は、2つ

極めて重度な、-0.6合 小青竜湯加石膏合二陳湯証

重度な、  0合 Nスクアレン製剤証

そして、副鼻腔の解析結果は、1つ

重度な、 0.2合 F曲參製剤証

これら3つの異常(病態)が重なり合って後鼻漏を起こしていたのです。

我々には、糸練功という技術があります。
患者さんの病態を分割し、個々の適合処方を誘導する技術です。
ですから、薬を服用する前に有効な処方を識別できます。

しかし、本症例の後鼻漏は非常に複雑です。
3つの病態を同時進行で改善させなくてはならないのです。

もし糸練功を活用せずに、この方の後鼻漏を治癒に至らしめる先生は、神の領域の凄腕です。

さて、患者さんはネットの情報を頼りに漢方製剤「半夏厚朴湯」、「黄耆建中湯」を入手して症状を悪化させています。

それは、何故か?
後鼻漏の方は、咽喉へ流れ落ちた鼻汁による「咽喉の異物感」を自覚することがあります。
咽喉の異物感には、半夏厚朴湯という漢方処方がよく適用されます。
ですが、本症例においては半夏厚朴湯の適応はありません。

また慢性副鼻腔炎には、黄耆建中湯の適応例があります。
しかし、本症例においては黄耆建中湯の適合はありません。

そうです・・・漢方薬の選定が間違っていたのです。

漢方薬だから安全・・・それは迷信です。
正確な漢方的解析があって、漢方治療は成り立ちます。

ご面倒でも、漢方専門の病院・薬局に足を運ぶのが賢明です。

最後に、糸練功の理論を構築され御教授賜りました木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に、衷心より感謝申し上げます。


必要となった漢方薬の料金

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
H利水製剤+Gカプセル製剤
(代用処方)
散薬+カプセル13,800円
(税別)
Nスクアレン製剤カプセル12,000円
(税別)
F曲參製剤散薬15,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります