胆砂と胆のう炎(上腹部痛・下痢・食欲不振)

20歳代、女性。

平成22年12月 来局。

数年前、当薬局において逆流性食道炎・咽喉頭異常感症(のどの異物感)の漢方治療を依頼された御婦人である。
逆流性食道炎・咽喉頭異常感症は、すでに完治している。

しかし 半年前より、右上腹部の鈍痛が生じ、その痛みが日増しに強くなり、病院にて検査。
その結果、微小な胆石(胆砂)を原因とする胆のう炎と診断された。
病院からはウルソ錠が処方されている。

しかし、上腹部痛は治まらず、軟便・下痢となり、ゲップが頻発。

食欲もなくなり、背中の痛み(胆のう部)も感じるようになる。
「このまま、どうなってしまうのだろう・・・」
そんな不安にかられ、疲労困憊での御来局だった。

ことさら疲労感が強く、患者さんは今にも泣きだしそうである。

舌の表面には白苔がやや厚い。
問診の中で、「瀉心湯(しゃしんとう)系の適応」は直感した。

詳細を確認すべく、糸練功(しれんこう)にて 大腸の反応穴(はんのうけつ)、愁訴部(右上腹部)、胆のう・胃(背部より)を解析する。

(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


治療経過

0ヵ月後
大腸の反応穴、右上腹部、胆のう・胃の反応

-0.4合臓腑病陽証生姜瀉心湯
0.3合臓腑病陽証黄連湯
 0.5合臓腑病大腸陰証金銭草・茯苓・芍薬

症状
右上腹部痛(強い)、軟便・下痢(強い)、ゲップ(多い)、食欲(なし)

疲労感は強く、食後にはゲップ・腹痛・下痢が頻発


1ヵ月後
大腸の反応穴、右上腹部、胆のう・胃の反応

1.0合臓腑病陽証生姜瀉心湯
1.3合臓腑病陽証黄連湯
 1.2合臓腑病大腸陰証金銭草・茯苓・芍薬

症状
右上腹部痛(消失)、軟便・下痢(なし)、ゲップ(少々)、食欲(あり)

上腹部痛は消失、便通も整い、食欲も改善

11ヵ月後、漢方治療を終了


結語

彼女は普段から胃腸が弱く、甘い菓子類が大好きな方です。

ここには掲載していませんが、彼女は平素から胃痛持ちで「安中散(あんちゅうさん)」という漢方薬を「お守り」として携帯しているそうです。

確かに、彼女は安中散が有効な「安中散証(あんちゅうさんしょう)」という体質(適応症)であることを、糸練功で確認しています。

ここで、重要なポイントを一つ。
安中散証の人は、原則として砂糖(甘味の物)は禁物です。
自分の体質を知らずに、甘い菓子を食べ続け 安中散証の胃痛を発症させている人はかなり多いです。

さて、このページに掲げる 腹痛・軟便・下痢・ゲップ・食欲不振の症状は、甘味が原因ではありません。

脂質(油)の消化・吸収が原因です。
揚げ物などの食べた油の消化には、胆汁が関わっています。

しかし患者さんには胆砂があって、胆汁分泌が少なめです。
その結果、消化不良の油が原因で腹痛や下痢を引き起こしたと考えられます。

そのような症状には、黄連・黄ゴンを主剤にした「瀉心湯(しゃしんとう)系」の適応症を呈することが多いです。

プロであれば、軟便・下痢・ゲップ・食欲不振のキーワードを聞くと、「生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)」の適応はピーンと浮かびます。

しかし、患者さんは理論どおりの病態とは限りません・・・。
漢方薬は 患者さんに適合して 効果を発揮します。
適合しない漢方薬は効きません。
効く漢方薬とは、適合性を見極めた漢方薬のことです。

いかに適合性を見極めるか・・・

その方法として、当薬局は 糸練功(しれんこう)という技術を応用しています。
この症状には、大腸の反応穴、右上腹部、胆のう・胃に 必ず磁場の乱れ(情報)が生じています。
その情報を漢方的に分析し、検証する技術が糸練功です。
(糸練功に関しては、著者の論文「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)

検証作業は 手間がかかります。
ですので、時間をかけて問診し、糸練功による解析をします。
(ですから当薬局は予約制です)

そして、
1.生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)証
2.黄連湯(おうれんとう)証
3.金銭草・茯苓・芍薬(きんせんそう・ぶくりょう・しゃくやく)証
の、結果を探り出しました。

・・・証(しょう)とは、・・・の漢方薬が適応する治療ポイントを示します。
・・・の漢方薬で治せるお病気のことです。

つまり、「患者さんの症状は、生姜瀉心湯、黄連湯、金銭草・茯苓・芍薬で治せる確証」が得られたわけです。

適合処方が解れば、後は漢方薬を服用するだけ・・・。
自然治癒力がめざめ、患者さん御自身の細胞が自己修復を始めます。

現実に、患者さんが治っている事実は 漢方薬が適合していることの証明です。

「患者さんと漢方薬の適合性を見極めた漢方治療」
糸練功は、それを実践するための技術です。

糸練功の理論は、木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)が構築され、その技法は 伝統漢方研究会で御教授いただきました。

木下先生はじめ、研究会の先生方へ感謝の念に堪えません。


必要となった漢方薬の料金

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
生姜瀉心湯散剤10,000円
(税別)
黄連湯散剤11,000円
(税別)
金銭草・茯苓・芍薬煎じ薬6,500円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります