頸椎椎間板ヘルニア(肩・腕・指のしびれ)
頚椎椎間板ヘルニアは、「再発しやすく、完治が難しい」と思われている。
「もう治らない」と諦めてしまう方も多いのではないだろうか。
しかし、伝統漢方研究会(伝漢研)に所属する先生方は、頸椎椎間板ヘルニアの改善症例を数多く報告されている。
当薬局においても、頸椎椎間板ヘルニアの治療依頼は多い。
伝漢研には、豊富な頸椎椎間板ヘルニアの改善症例と、治療パターンの情報が蓄積されている。
その情報と今日までの経験から、
「適合する漢方処方を識別すれば、頸椎椎間板ヘルニアは治せる疾患である」
と、我々は考えている。
その一例を紹介させていただく。
平成22年の秋、40歳代の男性が遠方より来局された。
2年前より、右肩から右腕・右手に、鈍痛と痺れ(しびれ)を覚え、病院で「頸椎椎間板ヘルニア」と診断されたそうである。
頸椎(6番)の変形を指摘されていた。
首筋が重く、上を向くと右手のしびれが憎悪する。
絶えず右肩の前面が重だるい。
消炎鎮痛薬「ロキソニン」が処方され、牽引治療が施されていた。
牽引の後に症状は和らぐが、「根治したい」と、漢方治療を望まれていた。
一連の問診の後、症状を漢方的に分析する。
その方法として、当薬局は「糸練功(しれんこう)」という技術を応用している。
愁訴部(頸椎・上肢)の反応を確認し、異常のある臓腑・經絡を特定、症状を消失させる適合処方を探索していく。
糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します
治療経過
0ヵ月後
頸椎・上肢の反応
A証 | 0合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 桂枝一越婢二湯 |
B証 | 1.6合 | 臓腑病 | 胃 | 陽証 | 麻杏ヨク甘湯 |
症状
首筋の違和感(強い)、右肩~上肢のしびれ(強い)
1ヵ月後
頸椎・上肢の反応
A証 | 1.2合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 桂枝一越婢二湯 |
B証 | 2.6合 | 臓腑病 | 胃 | 陽証 | 麻杏ヨク甘湯 |
C証 | -0.1合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陰証 | 桂枝二越婢一湯加苓朮附湯 |
症状
首筋の違和感(あり)、右肩~上肢のしびれ(あり)
A証・B証は改善するも、患者さん曰く「ちょっと良くなった感じ」・・・変だな?
念入りにチェックすると、隠れていた適応(C証)を確認する
2ヵ月後
頸椎・上肢の反応
A証 | 2.0合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 桂枝一越婢二湯 |
B証 | 3.7合 | 臓腑病 | 胃 | 陽証 | 麻杏ヨク甘湯 |
C証 | 1.2合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陰証 | 桂枝二越婢一湯加苓朮附湯 |
症状
首筋の違和感(軽度)、右肩~上肢のしびれ(軽度)
C証も順調な改善。
患者さんご自身も「しびれも、首の違和感も軽い」と、回復の兆しを自覚する。
すべての治療ポイントを把握できたと確信。
3ヵ月後
頸椎・上肢の反応
A証 | 3.1合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 桂枝一越婢二湯 |
B証 | 4.7合 | 臓腑病 | 胃 | 陽証 | 麻杏ヨク甘湯 |
C証 | 2.4合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陰証 | 桂枝二越婢一湯加苓朮附湯 |
症状
首筋の違和感(なし)、右肩~上肢のしびれ(疲労時に少し)
日常では、何の支障も感じない
13ヵ月後、漢方治療を終了
結語
頸椎椎間板ヘルニアの治療には、牽引・理学療法、消炎鎮痛剤、ブロック療法や手術など・・・
多くの選択肢があります。
しかし、頸椎椎間板ヘルニアへの漢方治療の有効性は、あまり知られていません。
頸椎椎間板ヘルニアの漢方治療の長所は、服用するだけで勝手に身体が自己修復してくれることです。
自然治癒力が目覚め、傷ついた組織を自分自身で治すのです。
そこでの漢方薬の役割は起爆剤(きっかけ作り)で、主役はあくまで患者さんの身体です。
まさに、生体の自然治癒力は、神秘であり、驚異です。
ここで重要なことは、適合する漢方薬の識別方法です。
「頸椎椎間板ヘルニア」という病名だけで、適合処方は誘導できません。
患者さんの体質・病態を分析して、治療法(適合処方)は決まります。
その分析の「正確さ」が、漢方治療の明暗を分けます。
まず、頸椎椎間板ヘルニアの病態は、非常に複雑で、漢方的解析は簡単ではありません。
「いったい、どんな漢方処方が適合するのか??」
そこで大きな力になってくれるのが「糸練功」という技術です。
糸練功を応用すると、
「治療ポイントはいくつあるのか?」
「ピッタリ適合する漢方処方は何か?」
を正確に分析できます。
ですので、必要な漢方薬だけで治療ができるのです。
さて、治療開始から1ヵ月後、2つの治療ポイント(A証1.2合、B証2.6合)は、上昇(改善)していました。
それにも関わらず、患者さんの実感は「ちょっと良くなったかな?」でした。
経験的に、B証2.6合の状態は「症状を微かに感ずる」段階です。
A証1.2合は「症状を感ずるが、さほど強くない」レベルです。
総合すると、「かなり良くなっている」と自覚するはずなのです。
このことは、まだ他に治療ポイントが潜在していることを暗示しています。
そして、念入りにチェックすると、-0.1合にC証を確認しました。
以上から、この頸椎椎間板ヘルニアを漢方的に解釈すると 「3つの治療ポイント(A証・B証・C証)が複合して発症しているものである。」
故に、「3種の漢方薬が治療のためのキーポイント」であることになります。
あとは、3種の漢方薬の服用で、患者さんの身体が自己修復をしてくれます。
漢方治療の大切なことは、闇雲に漢方薬を選ぶのではなく、
「如何に病態を分析し 如何に適合する漢方薬を識別するか」
です。
糸練功は、そのための技術です。
糸練功を御教授戴いた、木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ心より感謝申し上げます。
必要となった漢方薬の料金
漢方薬 | 漢方薬の種類 | 料金(30日分) |
桂枝一越婢二湯 | 散剤 | 10,000円 (税別) |
麻杏ヨク甘湯 | 散剤 | 9,000円 (税別) |
B接骨木製剤 (桂枝二越婢一湯加苓朮附湯の代用) | 散剤 | 12,000円 (税別) |
※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります