頚椎椎間板ヘルニア(肩痛・上肢の痺れ)

40歳代の男性が、頚椎ヘルニア(頚椎椎間板ヘルニア)と診断された。
第6番頚椎の異常を指摘され、発症から2年余りが経過していた。

首筋と右肩前面が、重く痛む。
右の上腕から手指(第二指・第三指)にかけて痺れ(しびれ)があるという。

痺れは上方を向く動作によって増強し、肩甲骨間(右側)にも鈍痛が走るという。

頚椎ヘルニアの「痛みと痺れ」に関して、初期段階に「痛み」を訴えることが多い。
そして、「慢性的な経過により『痺れ』が出現する」といった傾向がある。

無論、初期段階で漢方治療を開始すれば、治療はスムーズに展開する。
また、必要とする漢方処方も少ない。

一方、「慢性化した痺れ」の病態は、「初期段階の痛み」より複雑化し、治療に要する漢方処方も多くなる。
それは、頚椎ヘルニアに限らず、「脊柱管狭窄症」等においても同様で、複数の漢方処方を、1日6回で服用することも珍しくない。

漢方治療は、「頚椎ヘルニア」という病名だけで方針は決まらない。
頸椎ヘルニアに限らず、どんな疾病においても、「患者さんと漢方薬の適合性」が治療の鍵となる。
その適合性の識別に、当薬局は「糸練功(しれんこう)」という技術を活用している。

東洋医学は、「体表解剖学」である。
頚椎ヘルニアの場合、異常な反応は頚椎の愁訴部に現われる。

頚椎異常は、患者さんのどこ(臓腑・経絡)から起因しているか?
その原因は、いくつあるのか? 一つなのか? 複数なのか?
頚椎を正常化させる漢方薬(適合処方)は何か?

それらを、異常部位の情報を解析し、糸練功で適合処方を誘導するのである。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

患者さんの頚椎の解析結果を以下に記す。

1)第6頚椎の反応より

● 桂枝一越婢二湯加蒼朮(けいしにえっぴいちとうかそうじゅつ)証(A証)
● N・スクアレン製剤・外用(N・すくあれんせいざい・がいよう)証(B証)
● 麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)証(C証)
● B接骨木製剤(Bせっこつぼくせいざい)証(D証)

以上の4証が、患者さんの頚椎ヘルニアに深く関わっていると理解されたい。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方薬に適応する治療ポイントである。
つまり、本症例は、(A)(B)(C)(D)の4処方により、根治できることを意味する。

1ヵ月後
右肩の痛み:消失、首筋の鈍痛:軽度、上肢の痺れ:軽度

11ヵ月後
右肩の痛み:完全消失、首筋の鈍痛:完全消失、上肢の痺れ:完全消失

そして、漢方治療を終了する。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

上記の頚椎椎間板ヘルニアの治療に関して、服用開始より 3ヶ月後 には、肩痛・首筋の鈍痛は、完全に消失している。
また、痺れ(上腕~手指)も微かに残存する程度だった。

頚椎ヘルニアの症状の推移を前述したが、初期段階の痛みの病態(治療ポイント)は、A証、C証 と推測する。
一方、「慢性化した痺れ」の病態には、(D証)が適合し、治癒に至っている。

本症例における、B接骨木製剤(Bせっこつぼくせいざい)D証は、桂枝二越婢一湯加苓朮附、桂枝加苓朮附湯などの附子剤(ぶしざい)の代用処方として、木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)が開発された製剤である。

この製剤の優れた点は、構成中に附子を含有しないが、附子剤としての効力を持つことにある。

附子剤に含まれる附子は、毒性の高いトリカブトの子根を原料とする生薬である。
そして、適用の際は慎重を要する。
微量でも、アコニチン中毒の危険性を有するからである。

無論、本症例の頚椎ヘルニアのD証には、桂枝二越婢一湯加苓朮附を適用しても治癒できる。
しかし、安全性を最優先に鑑み代用処方のB接骨木製剤を適用した。

また、頚椎ヘルニアには、患部周辺の筋肉攣縮を伴うことが多い。
よって、芍薬甘草湯証の共存も否めない。
ただ、芍薬甘草湯は頓服が望ましい。
なぜなら、長期服用には「偽アルドステロン症:浮腫(むくみ)、血圧上昇」のリスクが伴う。
その理由から本症例では、N・スクアレン製剤(外用)を代用した。

以上のように、慢性化した頚椎ヘルニアを漢方薬で治療する場合、適合処方は単一でなく、複雑化している。
その複雑化した病態を、望診・聞診・問診だけのアプローチで治癒せしめるのは至難の業である。

そのことからも、糸練功による病態解析・適合処方の誘導の有用性は理解できよう。

糸練功への関心が広まり、一人でも多くの先生が活用することを祈念してやまない。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
桂枝一越婢二湯加蒼朮散薬12,000円
(税別)
N・スクアレン製剤外用3,600円
(税別)
麻杏薏甘湯散薬9,000円
(税別)
B接骨木製剤散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります