外耳道真珠腫(耳痛・耳漏と音響障害)
当薬局には、耳鼻科疾患の治療依頼が多い。
その方々は、県外から何時間もかけて通われている。
医療機関を巡られ、ご自身のお病気が難治性であることを感じられている。
ことに、その御家族の心中は複雑である。
本掲載は、聴覚過敏、外耳道真珠腫の症例報告であるが、その際、同伴されたお母様の表情も深刻だった。
「娘の耳は、どうなってしまうのだろう」
・・・それが正直なお気持ちだったらしい。
患者さんは、10歳代後半の女性である。
2年半前、長時間に渡る大音響下の曝露により、急性音響障害を発症する。
その後、音響障害は完治したという。
しかしその後、聴覚過敏となり、周囲の音が大きく聞こえ、耳痛も頻発。
特に強風の日は、風により引き起こされる様々な音が耐え難く、彼女の聴覚をかく乱するらしい。
耳痛は甚だしく、両耳の時もあれば、左右どちらかの時もあるという。
その数年後、耳だれ、外耳の痒み、頚部リンパ節の腫脹、耳鳴りも現われる。
そして、病院にて「外耳道真珠腫」と診断された。
既往症として、小学生時に副鼻腔炎。
時々、食後に腹痛があらわれ、そして右肩に強烈な圧痛を訴えていた。
現在まで、メチコバール、ATP腸溶錠、アセトアミノフェン、リンデロンVG、タリビット、アレグラ等の処方を受けている。
年頃の女性である。
「臭気のある耳漏(耳垂れ)」を、一番最初に治したいと申された。
当薬局は、漢方処方の選定に「糸練功(しれんこう)」という技術を活用している。
東洋医学は、「体表解剖学」である。
疾患の反応は、身体の体表部にも現われている。
その反応を解析し、最適な漢方処方を、糸練功を用いて誘導するのである。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)
問診より症状・経緯を伺った後、糸練功を用いて 愁訴部(両耳・右肩)の反応を確認・解析した。
その解析結果を、以下に記す。
1)両耳の反応より
●葛根湯加桔梗石膏(かっこんとうかききょうせっこう)証(A証)
●F曲参製剤(Fきょくじんせいざい)証(B証)
●黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)証(C証)
2)右肩の反応より
●防已黄耆湯合越婢加朮附湯(ぼういおうぎとうごうえっぴかじゅつぶとう)証(K1証)
以上の 4証が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」と表現しているのは、漢方処方の適応である。
つまり、○○証(異常)には、○○という漢方薬で治療が成立することを意味する。
通常、薬剤の有効性は、患者さんの服薬後に症状の変化をみて判定される。
しかし我々は、服薬前に(相談の段階で)有効性を識別している。
「なぜ、服薬もしていないのに、有効な薬が判るのか?」
と、一般の方は不思議に思われる。
しかし、それは可能な事象なのである。
人体は適合処方に接触すると、数十秒間、異常反応を消失(正常化)させる。
その特性を、糸練功をもって検知する。
ここで、上述の証における漢方的所見を述べる。
A証:葛根湯加桔梗石膏証
比較的浅い、亜急性の病態(異常)である。
患者さんは6ヶ月前より、外耳の痒み、耳だれ、頚部リンパ節の腫脹を新たに発症している。
それが治癒せずに残存した、その本態と思われる。
B証:F曲参製剤証
慢性化した病態。
化膿性疾患(副鼻腔炎、外耳炎、中耳炎)の長期化したケースに適応することが多い。
既往症である副鼻腔炎に連動している可能性が大である。
C証:黄耆建中湯証
慢性化した病態。
多くが分泌液を伴った化膿性疾患に適応し、A証、B証と交雑して耳だれ・聴覚過敏を増幅していると推測する。
K1証:防已黄耆湯合越婢加朮附湯証
慢性化した肩痛の病態。
本証の多くは、骨粗鬆症を背景とした骨折に適応する。
女性であれば、閉経後の発症が一般的であり、本症例のような若年には少ない。
このようなケースにありがちな誘因が「偏食」である。
食事の内容を伺うと、チョコレート等の菓子類を好み極度の偏食であるらしい。
これらを総合すると、外耳道真珠腫を含む本症の誘発因子は食養生の軽視である。
故に、「偏食を改めない限り根治は困難」である旨を伝え、実践して戴く。
さて、本来なら 4処方による同時進行が望ましいが、可能な服薬回数を鑑みて A証・B証・C証の3処方による治療を開始した。
(K1証への服薬は、他証の改善をみて着手することとする)
糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します
治療経過
・・・0ヵ月後
耳漏(耳垂れ) : 多い (両耳より、黄色で臭いを有する耳漏)
耳痛 : 強い (両耳)
聴覚過敏 : 強い (周囲の音が大きく聞こえる)
耳鳴り : 中程度 (時々)
頚部リンパ節の腫脹 : 強い
・・・1ヵ月後
耳漏(耳垂れ) : 少ない (両耳より、色は薄くなり、臭いは減ずる)
耳痛 : あり (両耳)
聴覚過敏 : 強い (周囲の音が大きく聞こえる)
耳鳴り : なし (消失)
頚部リンパ節の腫脹 : あり
・・・2ヵ月後
耳漏(耳垂れ) : 微か (両耳より、色はさらに薄く、臭いも僅か)
耳痛 : 軽い (改善中)
聴覚過敏 : 軽い (改善中)
耳鳴り : なし (消失)
頚部リンパ節の腫脹 : なし (消失)
・・・4ヵ月後
耳漏(耳垂れ) : なし (消失)
耳痛 : なし (消失)
聴覚過敏 : なし (消失)
耳鳴り : なし (消失)
頚部リンパ節の腫脹 : なし (消失)
風邪をひくと、一時的に症状の悪化をみるが、普段はすべての症状が消失。
現在も漢方治療を継続中。
考察
「外耳道真珠腫と聴覚過敏」 における漢方治療による改善過程です。
外耳道真珠腫の主な症状は、耳漏(耳だれ)や耳痛ですが、聴覚過敏という厄介な症状を伴っており、外耳以外への影響も懸念しておりました。
ただ、実際に糸練功による解析では、亜急性で症状の激しいA証(葛根湯加桔梗石膏証)と、慢性的にこじれた B証(F曲参製剤証)、C証(黄耆建中湯証)の3つの適応が明らかになりました。
ここでいう「糸練功による解析」とは、患者さんの体表から得られた病態(異常)を合数ごとに分割し、各々の病態に適合する漢方薬を照合する作業です。
病態は慢性化すると、複雑になり、複数の病態が現われます。
それは、急性期であれば、1種類の処方で治せるものが、複数の漢方薬を適用しないと治せなくなるということです。
糸練功の解析結果は、「適合する漢方薬」が解として割り出されます。
それは、相談の(まだ服薬していない)過程で判定された適合処方です。
一般的な投薬は、病名を特定 → その病名に使われる処方群から効きそうな薬をピックアップ → 実際に服用した後、効果を判定する
違いが解りますか?
糸練功を応用すれば、服薬前に確実性の高い治し方が特定できるのです。
さて、解析から得られた A証・B証・C証 の共通項は「化膿」です。
患者さんは、幼い頃から煎餅(もち米)や菓子類(白砂糖)が大好きです。
副鼻腔炎(蓄膿症)の既往症があります。
そして、治りにくい外耳道真珠腫と聴覚過敏を発症させています。
患者さんの嗜好と疾患・・・。
それらは無関係ではありません・・・リンクしています。
化膿性疾患の方は、「もち米・白砂糖の摂取を制限する」が必須です。
一般の方は、その重要性を知りません。
患者さんは、知らぬまま症状を悪化させていたのです。
この病態は非常に複雑です。
食養生を守り、かつ、3種の適合処方を全て見抜くことが、完治の条件です。
幸運にも、患者さんは食養生の大切さを知り、それを実行しつつ軽快しています。
今では、「2ヶ月に1回の通院でいいよ」と、ドクターから言われたそうです。
最後に、糸練功の理論を構築され、御教授を賜りました木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に衷心より感謝申し上げます。
治療に要した漢方薬と費用
漢方薬 | 漢方薬の種類 | 料金(30日分) |
葛根湯加桔梗石膏 | 散薬 | 13,000円 (税別) |
F曲参製剤 | 散薬 | 15,000円 (税別) |
黄耆建中湯 | 散薬 | 12,000円 (税別) |
※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります