耳閉感(自声強聴・不眠・眩暈を伴う)

高所に上がった時など、耳閉感(耳の塞がり感)は誰もが経験しているであろう。
たいていの耳閉感は一時的で、知らぬ間に消失してしまうもの。

しかし、耳閉感が慢性化し、漢方治療を依頼される方は多い。

今年(平成23年)の初夏、6年もの間 耳閉感に悩まれている方が訪れた。
症状は 平成17年に発症し、耳の塞がりは日により左右の耳を移動するという。
歌手を職業とする女性だが、自分の声が耳に響いて(自声強聴)歌えなくなったという。

懸命に病院を探し回ったものの、耳閉感は治まらず彼女を悩まし続けていた。
耳閉感の他に、不眠と眩暈(めまい)も訴えていた。

一連の問診の後、糸練功(しれんこう)の技法を用いて 両耳の反応を確認・解析した。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

その解析結果は、

●柴胡桂枝乾姜湯合香蘇散(さいこけいしかんきょうとうごうこうそさん)証(A証)
●連珠飲(れんじゅいん)証(B証)

の 2証が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」と表現しているのは、漢方処方の適応を意味する。

1ヵ月後
耳閉感、自声強聴、不眠ともに改善傾向にある。
が、「激しい動作により耳閉感が増悪、欠伸(あくび)が頻発する」という。

ピン!ときた。
即座に、五志の憂 ごしのゆう(自律神経の反応穴)と耳の反応を念入りに解析。

その解析結果は・・・

A証、B証の他に
●甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)証(C証)
が、低い合数で明瞭に識別された。

つまり、彼女の耳閉感には 「柴胡桂枝乾姜湯 + 香蘇散」 の漢方処方で治せる適応症(A証)
「連珠飲」 の漢方処方で治せる適応症(B証)
「甘麦大棗湯」 の漢方処方で治せる適応症(C証)
の3つの適応症が複合して、発症させていることを意味している。

2ヵ月後
激しい動作後でも耳閉感は増悪せず、欠伸(あくび)も減少。
自声強聴、不眠ともに改善。

4ヵ月後
耳閉感はほとんど消失し、職場復帰した彼女は美声をあげて歌っている。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

「耳閉感(自声強聴)」 への漢方治療による一例です。

耳閉感は、耳管狭窄症や耳管開放症などが誘因ともなります。
が、精神的な要因が隠れていることも多いものです。

耳閉感の漢方治療は、患者さんによっては複雑で、非常に難しいことがあります。
まさに、この方の耳閉感がそうです。

もし、糸練功(しれんこう)という技法に頼らずに彼女の耳閉感を治せる先生は「神の領域の名医」に違いありません。

初回の相談時、耳閉感治療によくあるパターンの「柴胡桂枝乾姜湯合香蘇散証」(A証)が識別できました。
また、「連珠飲証」(B証)の解析・誘導も容易でした。

「このまま治ってしまうだろう」と、著者は安堵していました。

しかし、その期待に反して30日後の回答は「少し良くなったような」でした。
「A証とB証の合数は順調に上昇しているにもかかわらず」です・・・。
「かなりの改善を自覚しても良いのだが・・・」

首を傾げる著者へ、彼女が一言・・・。
「激しいダンスをすると、耳の塞がりが強くなって、アクビが止まらなくなる」

その言葉は、他の適応症を暗示しています。
自律神経に関わる「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)証(C証)」の暗示です。

即座に「五志の憂」をチェックしたのは(C証)確認するためです。
(C証)は確かに、0.2合に存在していました。
その後、耳の反応を確認すると、(C証)は明瞭に識別できたのです。

すなわち、彼女の耳閉感は
「柴胡桂枝乾姜湯 + 香蘇散」 の漢方処方で治せる適応症(A証)
「連珠飲」 の漢方処方で治せる適応症(B証)
「甘麦大棗湯」 の漢方処方で治せる適応症(C証)
の「3つのすべてを治療しなければ、完治できない」ことを意味しています。

非常に複雑な症状です。
通常の問診で、この病態(治療法)を見抜くことは「不可能」です。

糸練功は、非常に画期的な技術です。
1.治療すべき異常がいくつあるのか?(合数の探索)
2.異常を正常化させる漢方処方はなにか?(合数の解析)
それらを、服薬する前に識別する技術です。

すなわち、服薬前に「すでに治し方を知っている」ことに違いありません。

漢方治療の命は、患者さんと薬の適合性を見抜くこと。
適合しない漢方薬は、何の効きめもありません。

適合性の見極め・・・
糸練功(しれんこう)を活用すれば、それが可能になります。

糸練功の理論を構築され、御教授いただいた 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ感謝の念に堪えません。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
柴胡桂枝乾姜湯合香蘇散散薬15,000円
(税別)
連珠飲散薬12,000円
(税別)
甘麦大棗湯散薬9,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります