眩暈を伴う咽喉の閉塞感

古来より、咽喉の閉塞感にお悩みの人は多かったのだろう。

現代でも、
「咽喉が狭くなったような・・・」とか、
「咽喉が塞がったような・・・」とか、
「肉片が、咽喉にひっかかっているようだ・・・」とか、
人によって表現は様々だが、多くの方が咽喉の閉塞感を訴えている。

このような症状を、漢方用語で「梅核気(ばいかくき)」と称している。
梅核は、梅の種のこと。
つまり、梅の種が咽喉につかえている状態を比喩した言葉である。

この咽喉の閉塞感には、古くから代表的な漢方処方が適用されている。
「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」である。

半夏厚朴湯は、5種類の生薬(半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜)を、一定の割合で混合した「煎じ薬」である。
今では、そのエキス剤が簡単に購入できる。

また、漢方薬を処方してくれる病院も増えている。
咽喉の閉塞感にお悩みの方は、一度、漢方外来を受診されるのも宜しいだろう。
半夏厚朴湯で解消されれば、一件落着・・・とても幸運なケースといえる。

ところが、半夏厚朴湯では全く歯の立たない病態が存在する。
当薬局への依頼は、圧倒的に半夏厚朴湯が無効であった複雑なケースが多い。

そこで今回は、「複雑な咽喉の閉塞感」の改善症例を報告する。

患者さんは、20歳代の男性である。
当初の依頼を受けた際、千葉県より、かなり遠方であった為、「近場で漢方治療を試みては?」と、薦めた。が、「効かなかった」との回答だった・・・。
「半夏厚朴湯が無効な咽喉の閉塞感」である。

千葉県外から来局される方々は、すでに一連の漢方治療を受けている。
それでも治らなかった方たちの病態は、どんな疾患でも難しい。
通常の傾向と対策が役立たない・・・一筋縄ではいかないのである。

患者さんは、咽喉の閉塞感の他に、吐き気と腹部膨満感を訴えていた。
耳鼻咽喉科、胃腸科を巡り、検査をしてもらったが異常は見つからず。

また、事故等の経験はないが、強い頚部の痛み(首こり)を自覚されていた。
立ちくらみ、眩暈(めまい)、頭痛(後頭部)も頻発するらしい。

問診から察する限りでは、一連の症状は頚椎異常と関連があるようにも窺えた。

患者さんの咽喉の閉塞感に、ピッタリ適合する漢方処方は何か?
問診後、糸練功(しれんこう)という技術を用いて漢方的解析を行った。
解析部位は、愁訴部(咽喉)と自律神経の反応穴、そして頚椎である。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

解析結果は、以下のとおりである。

○愁訴部と、自律神経の反応穴より
●小柴胡湯合半夏厚朴湯(しょうさいことうごうはんげこうぼくとう)証(A証)
●牛黄清心元(ごおうせいしんげん)証(B証)
●苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)証(C証)

○第五頚椎の反応より
●桂枝一越婢二湯加蒼朮(けいしいちえっぴにとうかそうじゅつ)証(K証)

以上の4つの適応が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」の表現は、○○という漢方藥で治療可能という意味である。

通常であれば、すべての4処方を用いる必要がある。
しかし、(B証)牛黄清心元が、(C証)苓桂朮甘湯の適応を兼ねることを、糸練功にて確認したため、(C証)を省いた治療計画を組み立てた。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


治療経過

・・・0ヵ月後
咽喉の閉塞感:非常に強い
眩暈:強い
頚部の痛み(首こり):強い

・・・1ヵ月後
咽喉の閉塞感:軽度(改善中)
眩暈:軽度(改善中)
頚部の痛み(首こり):痛みは消失(”こり”を感ずる程度)

・・・4ヵ月後
咽喉の閉塞感:ほぼ消失(疲労時に、軽い閉塞感)
眩暈:消失
頚部の痛み(首こり):消失

この後、冬季に患者さんは風邪を何度も発症する。
風邪による咽頭痛、項背のコリが生じると、眩暈と咽喉の閉塞感が再燃。
その都度、葛根湯加石膏、桂枝麻黄各半湯、柴葛解肌湯などによる風邪の鎮静化で、眩暈と咽喉の閉塞感は、すぐに消失。

しかし、こんなに風邪をひく人も珍しい・・・。

現在
漢方治療を継続中。


実践漢方のコメント

「複雑化した咽喉の閉塞感(異物感)」 の漢方薬による改善例です。

大昔から咽喉の閉塞感には、半夏厚朴湯が第一選択薬の如く使われます。
確かに、半夏厚朴湯が著効する咽喉の閉塞感は、多いものです。

ですが、現実は教科書どおりに治ってはくれないこともあるのです。

現に、患者さんの愁訴部(咽喉)には、

●小柴胡湯合半夏厚朴湯(A証)
●牛黄清心元(B証)
●苓桂朮甘湯(C証)

の、3つの適応が存在しています。
そして、これらすべては神経症状に関わります。

また、第五頚椎の異常である
●桂枝一越婢二湯加蒼朮(K証)
も、二次的な神経症状の誘因になります。

(A証)小柴胡湯合半夏厚朴湯(別名:柴朴湯さいぼくとう)の適応は、半夏厚朴湯に類似しますが、厳密には別の処方です。
ですから、半夏厚朴湯では治せません。

(B証)牛黄清心元の適応は、(A証)より、もっと複雑です。
咽喉の閉塞感において、この適応は極めて稀で、見逃すことが多いのです。

この方の咽喉の閉塞感は、以上の2処方で、ある程度の改善は可能です。
しかし、第五頚椎の(K証)桂枝一越婢二湯加蒼朮なしでは、完全には治りません。
第五頚椎の異常は、様々な神経症状の引き金になるからです。
ですから(K証)が確認されたら、その方には不可欠な漢方処方となります。

さて、患者さんは風邪をひく度に、一時的に症状が再燃(再発)してますね。
それは、風邪の症状である「首筋の筋肉が緊張して起こった現象」です。
当然、その時の頚椎にも一過性の新たな風邪の適応(異常)が生じています。
ただ、発症の初期段階で対応できれば、症状は短期間で消失します。

このように、半夏厚朴湯で治らない咽喉の閉塞感には、複数の誘因が錯綜していることが多いのです。
とても複雑です・・・。

この病態を見抜き、正確な治療へ導くことは、容易ではありません。
ただ、糸練功を応用すれば、それは可能になります。

如何に複雑な咽喉の閉塞感でも、病態を一つひとつのファクターに分割し、個々の適合処方を解析すれば良いのです。
糸練功は、その為の技術です。

現在では、患者さんの咽喉の閉塞感は消失、社会復帰されています。

糸練功の理論を御教授くださった 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局) へ、衷心より感謝の意を表します。

ありがとうございます。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
小柴胡湯合半夏厚朴湯散剤12,000円
(税別)
牛黄清心元丸剤24,750円
(税別)
桂枝一越婢二湯加蒼朮散剤12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります