月経時の下腹部痛・腰痛を伴う子宮内膜症

学生時代から、月経時の腰痛と下腹部痛(月経痛)は、気になっていた。
しかし、「20歳代の中頃より、徐々に月経痛が酷くなった」と、30歳代の御婦人。

月経痛は、甚だしく、「鎮痛剤が効かなくなっている」と申された。

彼女は病院で「子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)」と診断されていた。
月経の度に痛みは激しくなっていく・・・。
そのため、毎月 訪れる月経に、恐怖さえ感じておられた。

冷えは下半身に強く、その反面、上半身は熱くのぼせる。

舌下静脈を拝見すると、大きく怒張しておられた。
これは、漢方でいう「瘀血(おけつ)」・・・血行障害の兆候である。

御婦人に必要な漢方薬は、おおよそ察しがついた。
しかし、この段階は「推測の域」にすぎず、まだ処方決定の段階ではない。
推測以外の適応を見逃せば、満足な治療結果は得られない。
現に、慢性の子宮内膜症の治療には、複数の漢方処方を要することが多い。

当薬局は 糸練功(しれんこう)という技術を用いて、適合処方の解析をしている。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

子宮内膜症に異常を現わす反応穴を、糸練功にて確認・解析した。

解析結果は以下のとおりである。

○女性ホルモンの反応穴より

●甲字湯(こうじとう)証(A証)
●半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)証(B証)
●四逆散(しぎゃくさん)証(C証)

以上の3証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥に適応する病態(治療ポイント)である。

子宮内膜症には、甲字湯系や桂枝茯苓丸の適応は多い。(瘀血の治療点)

一方、(B証)半夏厚朴湯証や、(C証)四逆散証は自律神経と関わりが深い。
B証が顕著になれば、のどの閉塞感や、不安感が、
C証が悪化すれば、腹部の膨満、不眠の兆しが出現しても不思議ではない。

御婦人に、その症状を問うと 「ある」 と申された。

子宮内膜症だけに着眼するのなら、甲字湯だけでも、若干の軽減はできるだろう。
しかし、それだけでは完全な治療結果は望めない。

御婦人に 甲字湯、半夏厚朴湯、四逆散 3処方の必要性を伝え、了解を得た。

・・・1ヵ月後
服用後、20日後に月経あり。
月経痛(下腹部痛・腰痛):軽度(鎮痛剤は不要)
手・足が暖かくなり、のぼせも緩和。
のどの異物感は消失、不眠も改善中。

・・・2ヵ月後
月経痛(下腹部痛・腰痛):軽度(違和感のみ)
のぼせ・冷え・不眠も改善中。

・・・9ヵ月後
月経痛(下腹部痛・腰痛):消失
月経痛を全く感じない。
のぼせ・冷え・不眠も消失。

・・・現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

激しい月経痛を伴う、子宮内膜症への改善症例です。

まず、本報告は現代医学を否定するものではありません。
病院のホルモン療法、手術療法も、子宮内膜症治療の大切な選択肢です。

過去の薬剤治療は、GnRHアゴニストという薬で一定期間、生理を止める方法くらいでしたが、今ではもっと進化し、黄体ホルモン剤なども使われるようになっています。
その方法で、救われている人がいるのも事実です。

漢方薬局に訪れる方は、漢方薬という選択肢を希望される方です。

子宮内膜症には、駆瘀血剤(くおけつざい)に分類される漢方薬の適応が実際多いです。
しかし、その種類は多様で、更に患者さん一人ひとりに適合する処方は異なります。

個々の患者さんを解析して、適合処方を絞り込むことになります。
また、子宮内膜症に限ったことではありませんが、病気は慢性化すると治し難くなります。

それは病態が複雑化するため、複数の漢方薬が必要になるからです。
過去に漢方治療の経験がおありで、「良くなっているけど、すっきり治った感じがしない」 という方は、まだ未治療な適応(病態)があるはずです。

漢方治療の命は、病態と薬の適合性を見抜くことです。
適合しない漢方薬は、何の効きめもありません。

適合性を見抜く・・・
そのために当薬局は、糸練功という技術を活用しています。

糸練功は、画期的な技術です。
1.治療すべき異常がいくつあるのか?(合数の探索)
2.異常を正常化させる漢方処方はなにか?(合数の解析)
それらを、服薬する前に識別する技術です。

すなわち、服薬前に「適合処方を知る」ことに違いありません。
(糸練功に興味のある方は、論文「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)

糸練功の理論を構築され、御教授いただいた 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ感謝の念に堪えません。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
甲字湯散薬9,000円
(税別)
半夏厚朴湯散薬9,000円
(税別)
四逆散散薬10,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります