不妊症と卵胞刺激ホルモン(FSH)と漢方治療

卵胞刺激ホルモン(FSH:Follicle-Stimulating Hormone)は、脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンである。

FSH値は、卵巣の反応性を反映しており、加齢と共に上昇する。
ゆえに更年期、早発閉経の際にもFSHは高値を示す。
また、妊娠適齢期で不妊治療を受けている方の中にも高FSHを認めることがある。

その場合、現代医学ではカウフマン療法(エストロゲン製剤・プロゲステロン製剤)等が適用される。

その一方、漢方治療の領域でも高FSH値を改善し、妊娠に至る症例は多い。
本掲載は、その治療経過と考察である。

30歳代前半のご婦人。
結婚されて2年余り・・・不妊症を治したいと来局された。

中肉中背、月経周期:25日、月経痛:強い、月経前:乳房痛あり。
また、月経中には回転性の眩暈と、頭痛が出現。
低血圧(90/40)で、顔色は青白く、下肢の冷えが著しい。

不妊外来による血液検査では、「FSH検査値の高値」が指摘されていた。
(これは、後々に判明した)

基礎体温表を拝見すると、低温期が著しく不安定である。
理想的な二相性となるのは、長期を要すると思われた(図1)。


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(図1)


問診の後、不妊症の反応穴(はんのうけつ)を糸練功(しれんこう)を用いて確認、適合処方を解析した。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

解析結果を以下に記す。

○不妊症の反応穴より
●甲字湯(こうじとう)証・・・(A証)
●温経湯(うんけいとう)証・・・(B証)

○卵管の反応穴より
●六君子湯(りっくんしとう)証・・・(C証)

以上の3証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方藥が適応する病態である。

早速、甲字湯(A証)、温経湯(B証)、そして六君子湯(C証)にて治療を開始。

・・・0ヵ月後
基礎体温:低温期、安定せず
月経痛:強い
下肢の冷え:強い

・・・1ヵ月後
基礎体温:低温期、徐々に安定化
月経痛:ほぼ消失
下肢の冷え:ほぼ消失

・・・6ヵ月後
基礎体温:低温期は明瞭だが、高温期の持続化をはかりたい。
月経痛:消失
下肢の冷え:消失

生活環境を念入りに問診すると、睡眠状態に難あり。
(寝付きが悪く、夢を多くみるという)

もしやと、FSH異常の関与が脳裏に浮かんだ。
黄体ホルモン異常の反応穴、自律神経の反応穴を糸練功にて解析すると、

●桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)証・・・(D証)
●当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)証・・・(E証)

低い合数にある上記の2証を確認。
すでに安定化しつつある 温経湯(B証)、六君子湯(C証)を、段階的に桂枝加竜骨牡蠣湯、当帰建中湯へ処方変更する(図2)。

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(図2)


・・・11ヵ月後
病院にて、妊娠が確認される。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

FSHの高値を伴う、不妊症の改善症例です。

治療段階の当初は、駆瘀血剤(くおけつざい)と、卵管狭窄への漢方的アプローチが中心でありました。

治療開始時の基礎体温表(図1)を拝見する限りでは、体温は高めで、月経に伴う体温下降もハッキリしません。
低温期の持続も短いのです。

月経痛、下肢の冷えも顕著です。

この場合、適応を連想するのは駆瘀血剤です。

実際、不妊症の反応穴を糸練功にて解析すると、甲字湯(A証)、温経湯(B証)の適応が確認されました。
上記の2処方は、いずれも駆瘀血剤です。
甲字湯は「陽の瘀血」、温経湯は「陰の瘀血」に分類されます。

漢方薬を服用してその翌月、下肢の冷え・月経痛はともに軽減。
低温期もハッキリしてきました。

甲字湯(A証)、温経湯(B証)の合数も順調に改善しています。
これは、瘀血による病態が正常化していることを意味します。

そして、6ヶ月後。
高温期の持続がもっと欲しいところ。
他の適応の存在がないか疑いました。

日常生活の中で、気になることはないか?
よくよく伺うと、不眠の傾向があるとのこと。
寝付きが悪く、睡眠中も夢が多く、熟睡感がありません。

上記のワードは、桂枝加竜骨牡蠣湯の適応を連想させるのです。
また、桂枝加竜骨牡蠣湯は、FSH異常に適用されることも多いのです・・・。

早速、黄体ホルモン、自律神経に関する反応穴を解析すると・・・

桂枝加竜骨牡蠣湯(D証)
当帰建中湯(E証)

上記の低い合数の2つの病態が存在していたのです。

「FSHっていうホルモンの検査したことありますか?」
と問うと、
「そういえば、“高め”といわれたことがあります」
とのこと・・・。

不妊症、不眠そして高FSH・・・桂枝加竜骨牡蠣湯証を確信しました。

すでに、温経湯(B証)、六君子湯(C証)は順調に改善していました。
そして、二処方を段階的に桂枝加竜骨牡蠣湯、当帰建中湯へ処方変更。

当帰建中湯への切り替え後、高温期の持続状態は良好です。
そして、その1ヵ月後に妊娠へ至りました。

その後の経過は順調です。

さて、本症例の治療経過から考察すると、不妊症の原因として

1)瘀血の関与(甲字湯証、温経湯証)
2)卵管狭窄の関与(六君子湯証)
3)血虚の関与(当帰建中湯証)

そして、
4)高FSHの関与(桂枝加竜骨牡蠣湯証)

が上げられます。
非常に複雑です。

我々は、糸練功と言う技術を用いて漢方的解析を行います。
ですから、1つ1つの病態と適合処方をリンクさせて治療方針がたてられます。

ただ、このようなケースでは、西洋医学による検査結果と、問診からのヒントを伝っても、桂枝加竜骨牡蠣湯証は見抜けると思います。

不妊治療の現場では、FSHの高い方は睡眠障害や多夢を伴うことが多いのです。

不妊治療に向き合われておられる先生へ、
本報告が諸先生の御参考になれば幸甚に存じます。

最後に、糸練功の理論を構築され、御教授賜りました木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に、衷心より感謝申し上げます。


必要となった漢方薬の料金

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
甲字湯散薬9,000円
(税別)
温経湯散薬12,000円
(税別)
六君子湯散薬12,000円
(税別)
桂枝加竜骨牡蠣湯散薬9,000円
(税別)
当帰建中湯散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります

不妊治療の年齢について

不妊治療のご依頼に際して、年齢上の限界があります。
卵子の質・量的な観点から、45歳を過ぎると治療効果は著しく下がります。

そのため、不妊治療のご依頼は、45歳 を上限とさせていただきます。