「妊娠中に発症した激しい咳」・・・そんなお辛い体験をされる方は、想像以上に多いと思います。

お腹に赤ちゃんを宿しているのですから、服薬に際してはお母様ご本人は当然のこと、医師や薬剤師も非常に神経を使います。

母子ともに安全な方法で咳を治めたい・・・今回は、妊娠中に発症した咳(気管支喘息)の改善例をご紹介します。

40歳代の御婦人です。

“子宮内膜症に伴う不妊症”のため、当薬局で漢方治療をされて、その後 元気な第一子を出産されました。

病院で妊娠が確認されてから、御婦人は当薬局には来局されておらず、出産の報告を聞いたのは1年以上後のことでした。

彼女は、妊娠後期より息苦しさを伴う激しい咳が出現し、病院では”気管支喘息”と診断されたそうです。

吸入ステロイド喘息治療(ブデソニド)が処方され、無事に出産されたのですが、産後も咳は治まらなかったそうです。

咳は、コンコンという痰の少ない”カラ咳”で、就寝して温まる頃になると、息苦しさと咳が一層酷くなります。

病院からは継続的に、ブデソニド(パルミコート吸入液)が処方されていますが、授乳中でも赤ちゃんに影響の無い漢方薬を希望されていました。
(パルミコートは、授乳中でも安全に使用できる薬です。)

また、呼吸困難と咳の他に、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・眼の痒み等の、アレルギー性鼻炎症状も伴っています。

これらの症状と、発症時期から推察すると、“麦門冬湯(ばくもんどうとう)”の適応症例であることを直感させます。

では実際に、患者さんを困らせている咳(気管支喘息)と鼻炎は、〝麦門冬湯〟で治せるのでしょうか?

その確認方法として、当薬局は〝糸練功(しれんこう)〟という技術を活用しています。

人は身体に異常が生じると(病気に罹ると)、体表の特定部位にも〝病態〟が現れます。

その〝病態〟を解析して、適合する薬〝適合処方〟を検証する技術が糸練功です。
(糸練功の詳細は、「糸練功に関する学会報告」をどうぞ・・・専門職向けです)

患者さんの〝病態〟から解析された適合処方は、以下のとおりでした。

○呼吸器の反応穴(天宗)と、アレルギー性鼻炎の反応穴(右迎香)より

A証) 麦門冬湯(ばくもんどうとう) 【天宗、右迎香】
B証) 苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう) 【天宗、右迎香】

2つの反応穴(はんのうけつ)から、共通した2つの病態が確認されました。

A証)の麦門冬湯で治療すべき病態・・・これを漢方的に、〝麦門冬湯証〟といいます。
この病態は、妊娠中に多く現れます。痰の少ない〝カラ咳〟の本態と思われます。

B証)の苓甘姜味辛夏仁湯が適合する病態・・・〝苓甘姜味辛夏仁湯証〟です。
この病態は、貧血傾向のある人の鼻炎、喘息に応用されます。

これらの2つの異常(証)の存在は、治療には麦門冬湯と、苓甘姜味辛夏仁湯の2処方が必須であることを意味します。

つまり、麦門冬湯だけでは〝ある程度は治せるが、完全には治せない気管支喘息〟なのです。

その旨を患者さんに伝え、漢方治療を開始しました。

・・・0ヵ月後

就寝中の咳 : 強い
呼吸困難 : 強い

くしゃみ : 強い
鼻水 : 強い

・・・1ヵ月後

就寝中の咳 : なし
呼吸困難 : なし

くしゃみ : 少し
鼻水 : 少し

就寝時の咳と、呼吸困難(息苦しさ)は、ほぼ消失。

引き続き、漢方治療を継続中です。