頸椎椎間板ヘルニア(顔面痛を伴う)

男性は、平成20年の初頭より、様々な神経症状に悩まされていた。
不眠、頭痛、吐き気、そして強い咽喉の異物感・・・。

病院を転々としていたが、平成23年の春頃より左眼の周辺が痛み始めた。
痛みは両頬に拡大し、CT等の精密検査を受けられた。
しかし、異常はどこにも認められず、デパス(抗不安薬)が処方されていた。

問診時、よくよく伺うと頸椎椎間板ヘルニアの既往があるという。
御本人は、首筋の痛みを強く感じている。
が、特に治療は施されていなかった。

さて、漢方治療において、不可欠な条件がある。
それは、「病態と漢方薬の適合性」である。

適合性の判別方法は、様々である。
脈診、腹診、あるいは問診のみで著効させる名医もおられるやも知れない。
名医ではない凡人には、糸練功(しれんこう)という技術が、大いに役立つ。

漢方医学は、「体表解剖学」である。
疾病に応じて、体表の特定部位には必ず異常な反応が現われている。

神経症状には、五志の憂(ごしのゆう)といわれる部位が重要なポイントとなる。
また、三叉神経痛様の疼痛部位(眼の周囲・頬)、咽喉の反応もあわせて解析する。

そして、 苦痛は、患者さんのどこ(臓腑・経絡)から起因しているか?
その原因は、いくつあるのか? 一つなのか? 複数なのか?
病態を正常化させる漢方薬(適合処方)は何か?

それらを系統立てて明確化していく手法が、糸練功である。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

各部位の解析結果を以下に記す。

1)五志の憂の反応より
● 柴朴湯(さいぼくとう)証(A証) 代用処方:N・スクアレン製剤
● 抑肝散加減方(よくかんさんかげんほう)証(B証)

2)頸椎椎間板ヘルニア(第5頚椎)の反応より
● 葛根湯合R青皮製剤加附子(かっこんとうごうRせいひせいざいかぶし)証(C証)
※左眼周囲・頬の疼痛部と一致

以上の3証が、患者さんの病態に深く関わっていると理解されたい。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方薬に適応する病態(治療ポイント)である。
つまり、この方の症状は、(A)(B)(C)の3処方により治癒することを意味する。

1ヵ月後
顔面の痛み:軽度(改善中)、 咽喉の異物感:軽度(改善中)、 不眠・頭痛・吐き気:消失、 首筋の痛み:消失

6ヵ月後
顔面の痛み:消失、咽喉の異物感:消失、不眠・頭痛・吐き気:再発せず、首筋の痛み:再発せず

現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


考察

本症例の治療経過であるが、漢方の服用開始より 3.5ヶ月後 には、顔面の痛み・咽喉の異物感等の症状は、消失している。
興味深いことに、その改善は、首筋の痛みと連動していた。

しかしながら、風邪を発症すると、その都度、症状の再発を呈した。
が、葛根湯加桔梗石膏、あるいは桂枝二麻黄一湯などによる風邪の対応で消失した。

そのことから、症状の一時的な再発は、感冒による頸部筋肉の拘縮が原因であろうと思われる。

さて、本症例で注目すべきは、「頸椎椎間板ヘルニアへのアプローチ」である。

三叉神経痛等にみられる顔面痛には、急性期では葛根加(苓)朮湯、慢性期では葛根加(苓)朮附湯の適応が多い。

本症例の第五頸椎にも、「葛根湯合R青皮製剤加附子」の適応が認められ、顔面痛の愁訴部と合数が一致している。

その理由から、顔面痛を含む患者さんの神経症状は、「既往症の『頸椎椎間板ヘルニア』が背景にある」と思えてならない。

現に、半夏厚朴湯や他処方で対応しきれない「頑固な咽喉の異物感」が、頸椎異常の治療と並行して治癒する例は珍しくない。

よって本症例は、不眠・咽喉の異物感・顔面痛の「症状だけを目標に処方を構成しても根治は困難」と思われる。

この複雑化した病態を、糸練功を応用せずに治癒せしめる者は、神の領域の名医であろう。

それ故、処方決定に至る糸練功の有用性は計り知れない。

糸練功への関心が広まり、多くの先生方が活用することを祈念してやまない。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
N・スクアレン製剤カプセル剤15,000円
(税別)
抑肝散加減方錠剤6,000円
(税別)
葛根湯合R青皮製剤加附子散剤+錠剤17,800円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります