片頭痛(動悸、眩暈、嘔吐を伴う)の漢方治療

大勢の御家族に付き添われて、60歳代のご婦人が相談に訪れた。

1年前より、動悸を感じ始め、次第に激しい頭痛にもみまわれる。
ズキン、ズキンと頭が痛み、吐き気(時に嘔吐)を伴うという。
一日中、目が重く、回転性の眩暈(めまい)も頻発。

病院で検査をしてもらったが、「どこにも異常はない」と言われる。
そして、抗不安剤(デパス、マイスリー)が処方されていた。

平素から、胃腸が弱く下痢をしやすい。
口内に唾液がたまる。

一連の症状を伺って、御婦人への適合処方が頭に浮かんだ。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)・・・
桂枝人参湯(けいしにんじんとう)・・・
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)も考えられる。

発症の経緯から、2種以上の適応(治療ポイント)が存在するだろう。
自律神経の関与も大である。

問診の後、愁訴部(痛む箇所)と、眩暈の反応穴、自律神経の反応穴(五志の憂ごしのゆう)を糸練功(しれんこう)にて確認し、適合処方を解析する。
(糸練功の詳細は、「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

その解析結果は・・・

● 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)証
● 桂枝人参湯(けいしにんじんとう)証

以上の2証が、極めて低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥が適応する病態(治療ポイント)である。
つまり、御婦人の症状は、上記2処方により治癒可能であることを意味している。

苓桂朮甘湯エキス製剤、桂枝人参湯エキス製剤にて、漢方治療を開始。

・・・1ヵ月後
眩暈・頭痛は消失、動悸は減少。
毎日、気持ちの良い便通あり(下痢も消失)

・・・現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

「動悸を伴う片頭痛と眩暈」 への漢方薬による改善症例です。

御婦人は平素から冷え性で、胃腸が弱く、下痢をしやすい方です。
その上、水産加工業という寒冷の中での仕事ゆえ、冷え症状が顕著でした。

普段から、「下痢をしやすい」とか、「口内に唾液がたまりやすい」という傾向の方は、漢方用語で「胃寒(いかん)」と表現されます。
胃の中が冷え切った状態です。

単なる下痢・唾液分泌亢進なら、人参湯(にんじんとう)の適応が多いのです。
が、激しい頭痛や動悸、眩暈が伴うようになると、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)といった適応が考えられます。

また、頭痛に限らず、どんな疾患でも慢性的な経過をたどると、病態は複雑化します。

発症当初は、1つの漢方薬で治せるものが、複数の漢方処方を要するようになるのです。

御婦人は、細身で、胃腸虚弱の体質です。
胃腸を糸練功によって分析すると、安中散(あんちゅうさん)の適応も確認されました。

安中散証の人は、甘味を好みます。
しかし、甘味の物を食べると、腹痛や胸焼けを起こしたり、下痢をします。
ですので、砂糖などの甘味を制限してもらったのは他でもありません。

さて、当薬局は糸練功という技術で適合処方を確認しています。

「なぜ糸練功を活用するのか?」

闇雲に漢方薬を選んでも、患者さんは治せません。
漢方薬は、個々の患者さんに「適合したときだけに効くもの」だからです。

御婦人の頭痛の桂枝人参湯証は、呉茱萸湯証と似ています。
しかし仮に、彼女が呉茱萸湯を服用しても、頭痛は治りません。
それは、桂枝人参湯でしか治せない病態(治療ポイント)だからです。

また、慢性化した頭痛の多くには、複数の病態があります。

現に、御婦人の頭痛の原因は、
1)桂枝人参湯証
2)苓桂朮甘湯証
の2つであることが、解析済みです。

このことは、上記2処方によって、完璧な頭痛治療ができることを意味します。

桂枝人参湯だけを服用しても、
「頭痛は軽くなっているけど、まだスッキリしない」
と、答えるに違いありません。

慢性化した頭痛のほとんどは、そういうタイプの頭痛です。

「漢方を飲んで、頭痛が良くなっているけど、まだ頭が痛い・・・」
そういう方には、「まだ治療が必要な証(適応症)が残っている」と思います。

糸練功を応用する利点は、服用前(相談の段階で)に適合処方が解ることです。
たとえ複雑な頭痛であっても、「病態がいくつあるのか?」も識別できます。

「正確な漢方治療のため」
そのために、糸練功は活用されています。

糸練功の理論を構築され、御教授くださる木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に深く感謝いたします。

治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
苓桂朮甘湯散剤9,000円(税別)
桂枝人参湯散剤12,000円(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります