二人目不妊症(下腹部痛と冷え症)

三十歳代前半の御婦人・・・。

お困りの主訴は、二人目不妊症である。
6年前に第一子を出産。
その後、望んでおられるも、第二子を授かれなかった・・・。

排卵誘発剤、黄体補充療法を施されたが、妊娠には至らず。
彼女はご自身を責め、焦っているように伺えた。

基礎体温表を拝見すると高温期は短く、足の冷えを強く自覚されていた。
また、頻繁に下腹部が痛くなり、不正出血を幾度も経験されている。

二人目不妊のケースでは、高プロラクチン血症の関連も多い。
しかし、婦人科での血液検査によると「ホルモン値に異常なし」とのことである。

当薬局は、症状を詳しく聞いた後、患者さんの漢方的分析に、糸練功(しれんこう)という技術を活用している。

東洋医学は、「体表解剖学」である。
どんなに深い病気でも、その反応は身体の体表部に現われる。
その反応部位のことを、我々は「反応穴(はんのうけつ)」と総称している。

疾患は、患者さんのどこ(臓腑・経絡)の不調から発生しているのか?
その原因は、いくつあるのか? 一つなのか? 複数なのか?
患者さんを治癒せしめる漢方処方は何か?

それらを反応穴の情報を解析し、治療手段の決定に、糸練功を応用するのである。
(糸練功の詳細に関しては「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

問診後、患者さんの 1)不妊症、2)高プロラクチン血症、3)卵管、その他の反応穴を確認し、解析した。

解析結果を以下に記す。

1)不妊症の反応穴より
● 当帰散(とうきさん)証・・・-0.2合
● 温経湯(うんけいとう)証・・・0.2合

2)高プロラクチン血症の反応穴より
● 芍薬甘草湯合甲字湯(しゃくやくかんぞうとうごうこうじとう)証・・・-0.1合

3)卵管の反応穴より
● 六君子湯(りっくんしとう)証・・・1.2合

以上の4証が、それぞれの反応穴から確認された。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方藥に適応する病態である。

一般的に、合数が低い病態ほど症状が強く、優先的な治療を要する。

治療の優先順位は、
当帰散証(-0.2合)>芍薬甘草湯合甲字湯証(-0.1合)>温経湯証(0.2合)>六君子湯証(1.2合)
である。

とかく、当帰散証、芍薬甘草湯合甲字湯証は、合数が0以下のマイナスである。
極めて低いこの病態を放置すれば、妊娠の可能性はほとんどない。

また、卵管狭窄によくみられる六君子湯証の合数はさほど低くない。
よって、初期段階では、六君子湯を除く3処方にて治療を開始する。

・・・1ヵ月後
不正出血も止まり、治療開始より下腹部痛も消失している。
ひどかった下肢の冷えも感じず、基礎体温(高温期)も徐々に安定化しつつある。

【合数の変動:当帰散証 -0.2合→0.4合、芍薬甘草湯合甲字湯証 -0.1合→0.6合、温経湯証 0.2合→1.4合】

・・・2.5ヵ月後
基礎体温が高温のまま持続する。
婦人科にて、妊娠反応の陽性が告げられる。

【合数の変動:当帰散証 0.4合→1.3合、芍薬甘草湯合甲字湯証 0.6合→2.3合、温経湯証 1.4合→2.6合】

妊娠の判明後、芍薬甘草湯合甲字湯と温経湯の服用を中断し、当帰散のみの治療に変更。

現在、経過観察中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

「二人目不妊症」の漢方治療の一例です。

服用開始より、3ヶ月もたたずの妊娠ですが、治療に当たって大切なことを申し上げました。
それは、「自分を責めないこと」です。

不妊症に悩まれる多くの方は、自責の念にかられています。

しかし、ご自身を責めることは、強烈な自己否定です・・・
決して良い結果に繋がりません。

さて、婦人科で彼女が妊娠反応の陽性を告げられた際、
「出された漢方薬は、『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』でしょう?」
と、何度も聞きなおされたそうです。

無理もありません。

病院や薬局では、当帰芍薬散の処方名をよく耳にします。
実際、「○ム○の当帰芍薬散料」が不妊症のファーストチョイスの如く処方されてます。

確かに不妊症の方には、当帰芍薬散の適応は多いです。

しかし、彼女がその「当帰芍薬散」を服用しても、決して妊娠には至りません。
その理由は、彼女には当帰芍薬散の適応が無いからです。

当帰芍薬散と当帰散の薬方構成は酷似しています。

○当帰芍薬散:(6味)
トウキ、シャクヤク、センキュウ、ビャクジュツ、タクシャ、ブクリョウ

○当帰散:(5味)
トウキ、シャクヤク、センキュウ、ビャクジュツ、オウゴン

ともに、トウキ、シャクヤク、センキュウ、ビャクジュツの4味は同じです。
しかし、当帰芍薬散のタクシャ、ブクリョウの部分が、当帰散はオウゴンに置換しています。

この微妙な違いで、薬理作用は大きく異なります。

故に、当帰散証の方に当帰芍薬散を適用しても効果は無く、逆に当帰芍薬散証の人が当帰散を飲んでも無意味なのです。

また、もう一つの問題は、慢性的経過を辿った不妊症の多くは、複数の証(適応症)が確認されます。

現に、本記載の御婦人にも、1)当帰散証、2)芍薬甘草湯合甲字湯証、3)温経湯証。
そして卵管の反応穴より 4)六君子湯証。
合計4つの適応が存在しています。

4つの適応症の内、4)六君子湯証の症状は軽度で除外しました。
が、少なくとも3つの漢方処方が治療には不可欠であることを意味します。

ですから、ここのケースで当帰散だけの治療を試みても、成果は実らないでしょう。

それ以外の 芍薬甘草湯合甲字湯、温経湯にも大きな意味があるのです。
それだけ、時間の経った不妊症は複雑化しています。

漢方治療の命は、適合処方の見極めです。

不妊症の方、一人ひとりに必要な治療法を見抜かねばなりません。

ですから、我々は不妊症と聞いただけでは漢方薬を渡しません。
漢方薬のお渡しは、直に患者さんを分析して、有効性を確認した後です。

その有効性の判定に、糸練功という技術が存在するのです。

本掲載の二人目不妊症の治療例は、あくまでも一例です。
不妊症と診断されても、この方と同じ漢方薬が効くとは思わないでください。

漢方治療は、不妊症という病名で決めるのでなく、一人ひとりの個体差を見抜くことなのです。

最後に、糸練功の理論・活用法を御教授いただいた木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に、深く感謝申し上げます。

ありがとうございます。


必要となった漢方薬の料金

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
当帰散散薬10,000円
(税別)
芍薬甘草湯合甲字湯散薬9,000円
(税別)
温経湯散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります


不妊治療の年齢について

不妊治療のご依頼に際して、年齢上の限界があります。
卵子の質・量的な観点から、45歳を過ぎると治療効果は著しく下がります。

そのため、不妊治療のご依頼は、45歳 を上限とさせていただきます。