難治性の二人目不妊

三十歳代後半の御婦人。

4年前に念願の第一子を出産され、その後、第二子を望まれる。
しかし、妊娠の機会に恵まれず・・・二人目不妊の治療依頼である。

通常、不妊治療で訪れる方の多くは、病院にて検査・治療を経験されている。
しかし、御婦人には二人目不妊のための通院歴がなかった。
最初から「漢方治療で成果を出したい」とのご要望だった。

既往症として、特記すべき事項なし。
月経周期は規則的で、月経痛も軽度、望診上の所見からも健康そうである。
ただ、月経前に吐き気を伴う頭痛があり、憂鬱感が強くなるという。
下肢の冷えも重度ではないが、感じておられる。

基礎体温は測定開始より日が浅く、参照できる状態にあらず。

二人目不妊に限らず、一人ひとりの病態に適合する処方提供が、我々の役割である。
適合していない漢方薬を、いくら長期に渡って服用しても無意味である。
それ故、我々は患者さんと漢方薬の適合性の識別に、心血を注ぐこととなる。

漢方処方の選定方法は、医療機関によって共通性はあるが、必ずしも同一ではない。

当薬局は、その漢方的解析に糸練功(しれんこう)という技術を採用している。
二人目不妊の場合、その病態の反応は体表の一定部位に現われる(反応穴:はんのうけつ)。

その反応を解析することで、
●患者さんのウイークポイントはどこ(臓腑・経絡)か?
●そのウイークポイントは、いくつあるのか?
●そのウイークポイントを治し、妊娠を実現させる漢方処方は何か?

それらを、探索する技術が糸練功である。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

本症例において、解析に必要な反応穴は 1)不妊症(天髎:てんりょう)、2)高プロラクチン血症(背側)、3)卵管(腹側)、4)血海(腹側)である。

その解析結果を以下に記す。

1)不妊症の反応穴、血海の反応より
● 当帰散(とうきさん)証・・・-0.4合
● 甲字湯加黄ゴン紅花(こうじとうかおうごんこうか)証・・・0.4合

2)高プロラクチン血症の反応穴より
● 芍薬甘草湯合甲字湯(しゃくやくかんぞうとうごうこうじとう)証・・・-0.3合

3)卵管の反応穴より
● 六君子湯(りっくんしとう)証・・・2.7合

以上の4証が、各反応穴から確認された。
「○○証」と表現しているのは、○○という漢方藥で治療が成立する意味がある。

故に、本症例の二人目不妊においては、当帰散、甲字湯加黄ゴン紅花、芍薬甘草湯合甲字湯、六君子湯 の4処方を用いた治療が最善の方法となる。

次に、上述の4処方に関する優先性を検討する。

一般的に、合数が低い証(異常)ほど不妊への影響が大きく、その処方は不可欠となる。
よって、その優先順位は、
当帰散証(-0.4合)>芍薬甘草湯合甲字湯証(-0.3合)>甲字湯加黄ゴン紅花証(0.4合)>六君子湯証(2.7合)である。

ただ、卵管の異常と思われる六君子湯証は、2.7合とさほど重度ではない。
よって、「六君子湯を除外しても、妊娠の可能性は充分にある」と判断した。

早速、当帰散、芍薬甘草湯合甲字湯、甲字湯加黄ゴン紅花の3処方で治療を開始した。


kiso_taion_1000px_20150401

(図1)


0ヶ月~1ヵ月後
月経前の頭痛は消失し、憂鬱感も減少する。
基礎体温の低温期は、日ごとの高低差が大きい。

【合数の変動:当帰散証 -0.4合→0.4合、芍薬甘草湯合甲字湯証 -0.3合→0.6合、甲字湯加黄ゴン紅花証 0.4合→1.4合】

1ヶ月~2ヵ月後
月経前の頭痛なし、憂鬱感も軽度。
基礎体温の低温期は、日ごとの高低差は減少し、安定化の傾向に。(図1)

【合数の変動:当帰散証 0.4合→1.5合、芍薬甘草湯合甲字湯証 0.6合→1.5合、甲字湯加黄ゴン紅花証 1.4合→2.4合】

2ヶ月~3ヵ月後
月経前の頭痛なし、憂鬱感は微か。
月経予定日の体温下降は微弱で、月経なし。
→ その後、病院にて妊娠を告げられる(妊娠6週目)。

【合数の変動:当帰散証 1.5合→2.6合、芍薬甘草湯合甲字湯証 1.5合→2.4合、甲字湯加黄ゴン紅花証 2.4合→3.3合】

妊娠の判明後、芍薬甘草湯合甲字湯と甲字湯加黄ゴン紅花の服用を中断。
当帰散のみの服用に変更。

現在、経過観察中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

「二人目不妊」の漢方治療例です。

服用開始から、3ヶ月余りで妊娠され、その後の経過も順調です。

第一子を出産された後、二人目を授かれない要因として、プロラクチン(ホルモン)が過剰であるケース(高プロラクチン血症)が、よく見受けられます。

高プロラクチン血症の背景を漢方的に解釈すると、血滞(けったい)という血液循環の滞りであり、患者さんの反応穴を解析すると、駆オ血剤の適応が確認されます。

本症例では、「芍薬甘草湯合甲字湯」という漢方薬がそれに該当します。

芍薬甘草湯合甲字湯は、芍薬甘草湯という漢方薬と、甲字湯という漢方薬を合わせた(混合した)処方です。
が、その混合比は人によって異なります。
芍薬甘草湯の比率が多めが適合する方や、その逆もあります。

ですから、一人ひとりに適切な配合比を糸練功を用いて誘導します。

本掲載に関しては、患者さんは病院で不妊治療のための精密な検査を受けていません。
ですので、「高プロラクチン血症のデーター」はありません。
しかし、芍薬甘草湯合甲字湯の適応を呈している。
かつ、その適応が確実に改善し、妊娠された経緯がある。
その理由から、「高プロラクチン血症の関与」を推測します。

また、本症例のもう一つのキーポイントは、当帰散の適応です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)と間違えやすいですが、別の漢方処方です。

不妊症に適用される漢方処方は、種類も多く、適合性の識別は簡単ではありません。
しかし、糸練功というツールを活用すれば、個々の方に必要な漢方処方を正確に誘導できます。

糸練功の理論・活用法を御教授いただいた木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)に深く感謝いたします。


必要となった漢方薬の料金

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
当帰散散薬10,000円
(税別)
芍薬甘草湯合甲字湯散薬11,000円
(税別)
甲字湯加黄ゴン紅花散薬10,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります

不妊治療の年齢について

不妊治療のご依頼に際して、年齢上の限界があります。
卵子の質・量的な観点から、45歳を過ぎると治療効果は著しく下がります。

そのため、不妊治療のご依頼は、45歳 を上限とさせていただきます。