胆石様症状と逆流性食道炎(鳩尾痛・背部痛)

胆石症と逆流性食道炎は、発症部位も発症メカニズムも異なる。

両者は関連のない疾患に思えるが、漢方的見地からは意外な共通性が窺える。
また、これらを同時に発症するケースも存在する。

そこで今回は、病院で逆流性食道炎と診断された患者さん(女性)の改善例を報告する。

長年、彼女は 胃もたれと焼けるような胸痛、ゲップ、嘔吐に悩まれていた。
様々な医療機関を訪ねたが、症状は一進一退だったという。

しかし、漢方相談の当初は、とても難しい疾患には感じられなかった。
問診と糸練功(しれんこう)による解析では、適合処方の識別が容易だったからである。
(糸練功に関しては、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

典型的な生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)の適応だった。
治療経過は順調で、服用開始より 2ヵ月後 には症状は概ね消失。
「このまま治ってしまうだろう」と、安堵していた。

だが突如、彼女は激しい鳩尾(みぞおち)の痛みと背部痛にみまわれた。
「胸がチリチリ焼けるように痛い」と、逆流性食道炎様の症状も訴えられた。
だが、今までの生姜瀉心湯では治まらない。

病院の内視鏡検査にて、「食道裂孔ヘルニア」との所見を言われたそうである。
食道裂孔ヘルニアは、横隔膜から上に胃の一部がはみ出した状態である。
もちろん、逆流性食道炎の誘因でもある。

だが、この症状は漢方的には新たな適応症と考えるのが妥当である。

患者さんの愁訴部と、胃・食道の反応を、注意深く糸練功で解析すると・・・。

当初の生姜瀉心湯の適応症は、問題なく改善している。
しかし、これまでになかった顕著な適応症が確認された。
「柴胡桂枝湯加減方(さいこけいしとうかげんほう)」の適応である。

不可解だった。

「なぜだろう?」と、思案している最中・・・。
大蒜(にんにく)の香りが漂ってくる。
「痛くなる前、なに食べた?」と問うと・・・。
友人と焼肉店で、「こってりカルビと、激辛カルビクッパを食べた」と言う。

痛む部位は、鳩尾と右上腹部から右胸、そして右背部(肝臓・胆嚢付近)である。
「もしかして!」
急遽、糸練功で背部から胆嚢の反応をチェックした。
すると、強い金銭草系(きんそうけい)の適応が解析された。

この解析結果は、胆石(若しくは胆砂)症の可能性を疑わせている。

早速、柴胡桂枝湯加減方と金銭草系の薬方を追加した。
すると・・・服用後、間もなくして痛みは急速に和らいでいったそうである。

食養生として、和食を中心とした食事を摂ること。
コッテリ系、香辛料の摂取を避けるようにと伝える。

それ以降、症状の悪化はなく、順調な回復を続けている。

現在も、同処方を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

病院で、逆流性食道炎と診断された方の漢方治療例です。

通常、病院では逆流性食道炎に対して、H2ブロッカー(ヒスタミン受容体拮抗薬)や、PPI(プロトンポンプ阻害薬)が使われます。
が、これらが功を成さなかった患者さんです。

一方、漢方治療では逆流性食道炎の「胸焼け」「呑酸」「ゲップ」といった病態は、「生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)」の適応と合致することが多く、よく用いられます。

ですが、一見して生姜瀉心湯が有効と思われても、適合性が漢方治療の鍵。
異なる適応例もありますので、素人判断は禁物です。

本症例は、生姜瀉心湯が適応する典型的な逆流性食道炎でした。
しかし、ある日を境に同処方が効かない胸腹痛と背部痛が出現しました。

逆流性食道炎の再発と思われる方がほとんどでしょう。

この際に、糸練功という技術が大変役立ちました。
当初の逆流性食道炎の「胃もたれ」「ゲップ」「嘔吐」といった症状は、すでに消失しています。
その裏づけとして、生姜瀉心湯の適応症(生姜瀉心湯証)も改善しています。
ですので、他の適応の可能性が高いのです。

新たな胸腹痛、背部痛が起きる前の食事内容。
痛んでいる部位の位置関係。
そして、胆のう部に確認された「強度の金銭草系への適応性」。

それらを総合的に考慮すると、胆石(若しくは胆砂)の関与が濃厚なのです。

同時に存在した、柴胡桂枝湯加減方の適応は、内臓平滑筋の痙攣によるものと思われます。
これは胆石由来の胆嚢炎、膵炎の時によく発生する適応です。

今では症状の悪化もなく、順調に回復されています。
が、患者さんには痛んだ部位と症状を詳しく伝えて、病院で検査をしてもらうよう進言しています。

ご自身の状態を、現代医学を通して客観的に知ることも大切です。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
生姜瀉心湯散薬12,000円
(税別)
柴胡桂枝湯加減方散薬12,000円
(税別)
金銭草系生薬
(50日分)
煎じ薬5,500円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります