胸焼け・げっぷ・食欲不振を伴う、胆のう結石

壮年期以降、「人間ドッグで胆のう結石を指摘された」という事柄は珍しくない。

また、耐え難い疝痛発作(胆石発作)にみまわれない限り、胆のう結石の存在にすら気づかない方も多い。

しかし、身体というものは、体内に異常がある時は危険信号を発している。
胆石症の場合、胆石の生じた周辺に、不快な症状を感じることがある。
右季肋部の圧迫感や痛み、右背部(胆のうの裏側)の凝りや痛みなど・・・。

脂肪の消化吸収に重要な役割を担っている胆汁は、胆のう結石の原料でもある。
正常なら、食物摂取により消化のスイッチが入ると、胆のうが収縮。
十二指腸に胆汁が放出され、食物中の脂肪を乳化する。

ところが、胆のう結石はホースに詰まった泥の如く、胆汁分泌を妨げる。
その結果、脂肪の消化が滞り、「油分の消化不良」をきたす。
胃がムカムカしたり、吐き気がしたり、油っこい食事を敬遠するきっかけにもなる。

漢方薬局には、病院で原因が解らないと匙を投げられた消化器疾患の方も多い。
原因不明の腹痛、げっぷ、腹部膨満感、食欲不振・・・。

その方々には、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)、甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)といった瀉心湯系の適応がよく見られる。

瀉心湯の仲間である、黄連湯(おうれんとう)の適応も多い。

そういう場合、頻繁にチェックする部位がある。
胆のう(背部)の反応である。

胆汁分泌は正常なのか?
もしそこに、強度な金銭草系の適合性を認めれば、「『原因が解らない』と言った病院を替えてでも、再検査していただくこと」をお勧めしている。

金銭草系の適合とは、「金銭草によって治せる」ことを意味する。
漢方薬でも治せる・・・
しかしその前に、病院をとおして、客観的なご自身の状態を知ることも大切である。

さて、ここでは「明らかな胆のう結石」のケースでの漢方治療の経緯を紹介しよう。

40歳代の女性。
7年前、人間ドッグで「胆のう結石(胆砂)があるよ」と、知らされたという。
その頃は、目立った症状はなかった。
しかし、食後の胸焼けが気になりだし、げっぷも多くなったという。
鳩尾(みぞおち)が痞え、背中が張って苦しい・・・。
そして右季肋部が痛むようになり、食欲も落ちてきたので、病院へ駆け込んだ。

人間ドッグですでに胆のう結石と解っていた・・・。
しかし、ドクターは「ウルソとか、薬はあるけど、あまり効かないから・・・」
と、内服薬は処方されなかったそうな。

彼女は懸命にネットで調べたらしい。
以降、漢方治療のために月に一度、時間をかけて来局されている。

相談の当初、背中の張り、胸焼けが強く、食欲が極端に落ちていた。
舌は、厚い黄苔に覆われていた。
この状態を漢方的に解釈すると、胸脇部の熱の欝滞を意味している。

おそらく、柴胡剤(さいこざい)の適応だろうが、大黄(ダイオウ)を含む漢方処方「大柴胡湯(だいさいことう)」を要するほどの適用に感じた。

そのような適応が、実際に患者さんに現われているか否か・・・。
当薬局は、その確認のために糸練功という技術を活用している。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

この場合、患者さんの愁訴部(右季肋部)と、胆のう・胃の反応穴(背部)を確認し、適合処方を解析していく。

その解析結果は、以下のとおりである。

○愁訴部と各部の反応より
●金銭草+茯苓(きんせんそう+ぶくりょう)証(A証)
●大柴胡湯(だいさいことう)証(B証)
●半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)証(C証)

以上の3証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥で治療が成立する意がある。

上記の3適応を漢方的に解説すると、

A証) 金銭草+茯苓証は、胆のう結石を排除しようとする生体反応であり、本症例の根本的治療点である。

B証) 大柴胡湯証は、胆汁の鬱積のため胸脇部に強い熱を帯びた状態である。
右季肋部や、背部の強い圧迫感の本体である。
人によって、激しい痛みを伴う胆嚢炎を併発することがあり、その場合は本処方では対応不可となることが多い。

C証) 半夏瀉心湯証は、胆のう結石のために胆汁分泌が阻害され、脂肪の消化能力が衰えた状態。
「油分の消化不良」のため、鳩尾の痞えや胃もたれが起こるが、それらは胆のう結石による2次的症状と思われる。

早速、3処方の服用を開始。

・・・0ヵ月後
右季肋部痛・背中の圧迫感:強い
胸焼け・ゲップ・鳩尾の痞え:強い
食欲不振:強い

・・・1ヵ月後
右季肋部痛・背中の圧迫感:消失(著効)
胸焼け・ゲップ・鳩尾の痞え:軽度(改善中)
食欲不振:軽度(改善中)

・・・2ヵ月後
右季肋部痛・背中の圧迫感:消失
胸焼け・ゲップ・鳩尾の痞え:消失
食欲不振:消失

・・・4ヵ月後
右季肋部痛・背中の圧迫感:消失
胸焼け・ゲップ・鳩尾の痞え:消失
食欲不振:消失

・・・現在
漢方治療を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

胆のう結石と、それに伴う鳩尾の痞え感、季肋部痛、食欲不振における漢方治療例です。

正確には、胆のう結石の大きさは、砂状ですから「胆砂」です。
胆砂は、胆石よりも細かいですが、胆石よりも治療は長びきます。

本症例では、漢方治療の開始から 2ヵ月後 には随伴症状のすべてが消失しています。
金銭草+茯苓(A証)の回復も順調ですので、今後の検査結果が楽しみです。

患者さんは、真面目で勤勉な方です。
が、たまに仕事上の付き合いで、油っこい食事をすると「胃がもたれる」そうです。
そのとおりです。
今は、治っている途中です・・・完治の状態ではありません。
こってりしたピザなど食べた後には、症状が悪化するのは明白です。

今回の症状が、ご自身の身体と向き合う、良い機会になればと思います。
そして、完治を告げられた後も、金銭草系の漢方だけは、お茶代わりにして、常に胆道内を綺麗に保つことが大切です。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
金銭草+茯苓
(50日分)
煎じ薬5,500円
(税別)
大柴胡湯散薬12,000円
(税別)
半夏瀉心湯散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります