難治腰痛(臀部~大腿の痛み)
50歳代、男性。
平成22年2月 来局。
青年期より30年にわたって、腰痛(坐骨神経痛)を抱えておられる。
左の臀部から、大腿外側にかけての痛みに悩まれていた。
長年の痛みのため・・・「本当に痛くて、毎日が憂鬱です。」
と、表情は曇りがちで、疲労困憊のご様子だった。
肩関節の痛み(五十肩)も併発されておられるが、腰痛治療を優先したいとのこと。
舌は、乾燥気味で舌外周に歯で擦れた形跡(歯切り痕)あり。
これは、胃内停水と言われる水分代謝の滞りを想像させた。
一通りの問診の後、愁訴部(腰から下肢)を糸練功(しれんこう)で反応を確認、適合処方を解析した。
糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します
治療経過
0ヵ月後
愁訴部(臀部~大腿外側)・腰椎の反応
-0.4合 | 臓腑病 | 胆 | 陽証 | 五積散 |
0.3合 | 臓腑病 | 胆 | 陰証 | 芍薬甘草湯 |
1.6合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 越婢加苓朮湯 |
症状
臀部~大腿外側の痛み(激しい)
軽度な下肢の浮腫あり
6ヵ月後
愁訴部(臀部~大腿外側)・腰椎の反応
5.5合 | 臓腑病 | 胆 | 陽証 | 五積散 |
7.3合 | 臓腑病 | 胆 | 陰証 | 芍薬甘草湯 |
8.2合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 越婢加苓朮湯 |
症状
臀部~大腿外側の痛み(消失)
下肢の浮腫、消失
10ヶ月後、漢方治療を終了する
結語
一般的に、発症から数十年も経過したお病気は、治り難くなります。
経年によって、治療ポイント(必要とする漢方薬)が増えるからです。
しかし、適合する漢方薬が識別できれば、難治な腰痛であっても治療は可能です。
ただし、漢方薬は、闇雲に選んでも効きません。
漢方治療の要は「患者さんの病態を正確に把握し、適合処方を見極める」ことです。
これを「証(しょう)の見極め」といいます。
言葉で記すのは簡単ですが、慢性疾患の場合、患者さんには複数の適応が存在します。
当然、治療法も複雑です・・・。
証を見極めるのは容易ではありません。
この方の腰痛を問診だけで治せる先生は、きっと、スゴ腕の名医です。
名医でない著者は、糸練功(しれんこう)という技術を応用して病態を分析します。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)
そして、病態(腰痛)の分析結果は・・・
1.五積散証(ごしゃくさんしょう)
2.芍薬甘草湯証(しゃくやくかんぞうとうしょう)
3.越婢加苓朮湯証(えっぴかりょうじゅつとうしょう)
の 3つの適応でした。
このことは、ここでの腰痛(坐骨神経痛)を完治させるには、五積散、芍薬甘草湯、越婢加苓朮湯の 3処方が必要であることを意味します。
単独処方(1つの漢方処方だけで)で治せない、難治性の腰痛です。
そして、1ヶ月後・・・
腰痛はかなり軽減しています。
糸練功の指標である合数(ごうすう)も、3つとも上昇しています。
もし、漢方薬が適合していなければ、患者さんの痛みは変わりません。
合数も上がりません。
この事実は、漢方処方のすべてが 患者さんに適合している証です。
3ヵ月後には 「痛みをほとんど感じない」レベルにまでの改善です。
6ヵ月以降は 「痛みを全く感じません」が、再発予防の仕上げの段階です。
そして、10ヵ月後・・・本当の完治。
「患者さんと漢方薬の適合性を見極めた漢方治療」
糸練功は、それを実現させるための技術です。
糸練功の理論を構築され、御教授いただいた 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ感謝の念に堪えません。
必要となった漢方薬の料金
漢方薬 | 漢方薬の種類 | 料金(30日分) |
五積散 | 散剤 | 10,000円 (税別) |
芍薬甘草湯 (代用として) | カプセル剤 | 6,000円 (税別) |
越婢加苓朮湯 | 散剤 | 11,000円 (税別) |
※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります