胸郭出口症候群(激しい肩背痛)
始終、右手で左肩をさすりながら男性が口を開かれた。
「肩がめちゃめちゃ凝って痛いんです」
発症は、6ヶ月前。
「肩甲骨の間の左側~左肩~首筋が凝ってこって苦しい」と申された。
特に歯磨きの時、下を向いていると激しく肩が凝り、痛むという。
病院では、「胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)」と診断され、薬が処方されていた。
舌証は、むくんで舌の両縁に明瞭な歯切り痕がある・・・。
胃内停水(水分代謝の滞り)の兆候である。
問診の後、愁訴部(肩甲骨間の左側-左肩)を、糸練功(しれんこう)にて確認。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)
すると、 烏口突起の周囲から首筋~肩甲骨間に異常がみられた。
小胸筋が、神経・血管を圧迫しているのだろう。
解析結果は、以下のとおりである。
● 桂枝一越婢二湯(けいしいちえっぴにとう)証
その証が、低い合数(0合)で確認された。
合数“0合”にある証・・・その症状は激しく、痛みは強烈である。
また、“○○証”の表現は、○○という漢方薬に適応する病態(治療ポイント)である。
つまり、この方の症状は、上記の処方により、根治可能を意味する。
桂枝一越婢二湯・・・この処方は、桂枝湯(けいしとう)1/3 に、越婢湯(えっぴとう)2/3 を合わせた薬方である。
しかし困ったことに、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)エキスは製造されている。
しかし、朮(じゅつ)抜きの越婢湯エキスは、どこの製薬メーカーも製造していない。
桂枝湯エキスと、越婢加朮湯エキスの混合で、実際に有効か否かを糸練功で確認。
・・・患者さんの異常反応(肩こりの反応)は問題なく消失した。
桂枝湯エキス、越婢加朮湯エキスの適量を、同時に服用していただく。
0.5ヶ月後
肩背痛:軽度(凝りも軽度)
(愁訴部の合数も、2.8合 に上昇)
しかし、0.1合に、經絡病(慢性化していない)の反応を確認。
凝り・痛みの性質を問うと、
「良くなっているんですが、ちょっと前から違う痛みがでてきて・・・」
とのこと。
解析結果は、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)証。
芍薬甘草湯エキスの適量を追加した。
その翌日、電話が入った。
「あの甘い粉薬(芍薬甘草湯エキスのこと)を飲んで、すぐに治まりました。」
と、喜びの報告だった。
2ヵ月後
漢方治療を完了した。
糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します
実践漢方のコメント
胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)の漢方治療による一例です。
胸郭出口症候群は、首や胸の筋肉、鎖骨・肋骨などに神経・血管が圧迫されて起こるお病気です。
手、腕のしびれ、腕の脱力感などの症状も起こりえます。
が、患者さんの訴えは「激しい肩こり」でした。
幸いなことに、発症から半年だった爲、服薬2ヶ月で完治しました。
ここで使用した「桂枝一越婢二湯」は、桂枝湯に越婢湯を多めに加えた薬方です。
越婢湯が適応する症状は、「非常に激しい」という特徴があり、その痛みも強烈です。
患者さんの感ずる肩こりは、「凝り」ではなく、「痛み」であり、かなり深刻なものであったと察します。
ここで触れておきたいことは、治療法(=適合する漢方薬)の検索方法です。
漢方薬は、闇雲に選んでも効きません。
漢方薬は 患者さんに合わせて効かせるものです。
適合しない漢方薬は、全く効かないのです。
漢方治療の命は、適合性・・・患者さんと薬の相性を見抜くことなのです。
適合性の見極め方・・・。
その方法として、当薬局は 糸練功(しれんこう)という技術を応用しています。
凝り・痛みを発している患部には、磁場の乱れ(情報)が生じています。
その情報を、漢方的に分析する技術が糸練功です。
服薬前(相談時)に、薬の適・不適を識別する方法です。
(糸練功に興味のある方は、「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)
そして、
1.桂枝一越婢二湯証
2.芍薬甘草湯証
という、適合処方を導いたのです。
・・・証(しょう)とは、・・・の漢方薬が適応する病態です。
・・・の漢方薬で治せるお病気のことです。
つまり、相談の過程で、適合処方を知ることになります。
適合処方が解れば、後は漢方薬を服用するだけ・・・。
自然治癒力が目覚め、患者さんご自身の細胞が自己修復を始めます。
現実に、患者さんが治っている事実は、漢方薬が適合していることの証明でもあります。
「患者さんと、漢方薬の適合性を見極めた漢方治療」
糸練功は、それを実践するための技術です。
糸練功の理論を構築され、御教授いただいた 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ感謝の念に堪えません。
治療に要した漢方薬と費用
漢方薬 | 漢方薬の種類 | 料金(30日分) |
桂枝一越婢二湯 | 散剤 | 12,000円 (税別) |
芍薬甘草湯 (15日分) | 散剤 | 5,000円 (税別) |
※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります