関節リウマチ(関節腫脹・手のこわばり)

現代医学における関節リウマチの薬物療法は、目を見張るものがある。
分子標的薬「トファニシチブ」も登場し、治療の選択肢は広がっている。
関節リウマチの苦痛が軽減される方も増えるだろう。

また、古来から伝承されている漢方薬も、関節リウマチの有益な治療法である。

ただ、漢方薬を適用する場合、東洋医学の概念である「証(しょう)」を熟知していなければならない。
その概念は、科学的思想に基づく現代医学とは大きく異なり、科学慣れした人間にとって、理解し難い。

そのため、現代医学的に漢方薬を運用できるよう症候別マニュアルも存在する。
しかし、一定の成果はあるが、完璧には治せない。

関節リウマチという同じ疾患であっても、個々の患者さんは同一ではないのである。
加えて、慢性期へ移行した関節リウマチの患者さんには、複数の適応が認められる。
その場合、治療には 2種類以上の漢方処方 が必須となる。

故に、「漢方薬を服用したが、効かなかった」という原因には、
「証をはずしていた(適合していなかった)」か、
「他の適応(証)を見逃した」ことが考えられる。

ただ、証の識別さえ正確であれば、漢方薬は極めて有益な治療法となる。

そこで本掲載では、「糸練功(しれんこう)」という識別技術を応用した、関節リウマチの改善例を報告する。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


糸練功による証(しょう)の識別

患者さんは、30歳代後半の女性である。

十数年前に、関節リウマチを発症。
両手首の腫脹、発赤、疼痛が強く、両手(第五指)の第二関節の変形あり。
朝方の手のこわばりあり。
手首の痛みの為に、日中はペンを握る事務仕事にも難儀し、夜には眠りが妨げられる。

第一頚椎の変形も指摘されており、強い首こり・肩こりも訴えられていた。

整形外科より、ロキソニン(内服:1日1錠)が処方され、痛みが激しい時にはケナコルトの局所注射を受けている。

本症例の糸練功の適用は、愁訴部(手首・第五指の第二関節)と、頚椎変形部にて行う。
そして、各所の異常を合数ごとに分割し、適合処方を解析する。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

解析結果を以下に記す。

1)両手首・第五指の第二関節の反応より
●麻杏薏甘湯合R青皮製剤(まきょうよくかんとうごうRせいひせいざい)証(A証)
●K露蜂房製剤(Kろほうぼうせいざい)証(B証)
●桂枝二越婢一湯加苓朮附湯(けいしにえっぴいちとうかりょうじゅつぶとう)証(C証)

2)頚椎変形部(第一頚椎)の反応より
手首の(A証)、(B証)、(C証) と一致

以上の 3証が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」と表現しているのは、漢方処方の適応である。
つまり、○○証(異常)には、○○という漢方薬で治療が成立することを意味する。

ここで、上述の証における漢方的所見を述べる。

A証:麻杏薏甘湯合R青皮製剤証
強い腫脹を伴う陽証の病態(異常)である。
本病態には、麻杏薏甘湯加石膏でも有効と思われるが、麻杏薏甘湯合R青皮製剤が、よりシャープな適合性を呈した為、本処方を選択した。

B証:K露蜂房製剤証
慢性化した病態。
関節リウマチの本治として、多く確認される病態である。

C証:桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証
慢性化した陰証の病態。
骨損傷を生じ、治癒せぬまま経年した病態と推測する。

早速、3処方の服用時刻を設定、A証・B証・C証の3処方による治療を開始した。


治療経過

・・・0ヵ月後
手首の痛み : 強い(睡眠障害あり、ロキソニン服用)、手首の腫れ : 強い、手のこわばり : 強い、首こり・肩こり : 強い

・・・1ヵ月後
手首の痛み : 軽度(睡眠障害なし、ロキソニン不要)、手首の腫れ : あり (改善中)、手のこわばり : 軽い (改善中)、首こり・肩こり : あり (改善中)
(漢方薬の服用後に、「痛みが軽くなる」との報告あり)

・・・4ヵ月後
手首の痛み : 微か(睡眠障害なし、ロキソニン不要)、手首の腫れ : 微かに (改善中)、手のこわばり : なし (改善中)、首こり・肩こり : なし (改善中)
(朝方の手のこわばりは、消失する)

手首の痛み・腫脹は、円滑に改善するも、服用を忘れること多々あり。

現在、漢方治療を継続中。


考察

関節リウマチにおける漢方治療は、民間療法やサプリメントと混同される方がいる。
しかし、全く異質の範疇にある。

前述のように、関節リウマチを患う方は個々に異なり、適合処方も千差万別である。
決して、「関節リウマチであるから、この漢方薬」という法則はない。
最も重要なことは、一人ひとりの病態を正確に解析し、適合処方を誘導することである。

その方法として、糸練功を応用した解析を、著者は採用している。

書面の都合上、ここでは解析の原理・手順等を省略する。
糸練功の詳細は、著者の傷寒論学会(中国)への「糸練功に関する学会報告」をご覧戴きたい。

糸練功による解析は、正確である。
愁訴部(患部)には、いくつの治療を要する合数(病態)があるのか?
その一つ一つの病態に適合する漢方処方を誘導していく。

時系列にて、適合であれば症状の寛解とともに、合数は上昇(改善)する。
不適合であれば、症状も不変で、合数も上昇しない。

現在、患者さんの関節リウマチの回復は良好である。
当然ながら、合数も順調に上昇している。
朝方の手のこわばりは 3ヵ月後に消失し、痛みで睡眠を妨げられることもない。

ただ最近は、漢方薬の服用を忘れがちである。
現状の症状の寛解は、完治ではない。

治療に向き合う真摯な姿勢を切に願う。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
麻杏薏甘湯合R青皮製剤散薬15,800円
(税別)
K露蜂房製剤散薬12,000円
(税別)
桂枝二越婢一湯加苓朮附湯散薬12,000円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります