口腔灼熱症候群(舌・口内のヒリヒリ感)
50歳代、女性。
ご婦人の主訴である顔面の湿疹も、順調に回復されていた。
顔の赤み・痒みも、完全消失し、治療の完了を告げると・・・。
「口の中の痛み・・・漢方薬で治せませんか?」と、問われた。
3年前から、口内に違和感があらわれ 上下の歯茎の裏側と舌先が痛むようになったとのこと。
「口中が粘って、舌先がいつも酸っぱい感じがする」とも申された。
歯科でドライマウスを指摘され、舌のストレッチ指導を受けてから症状は幾分やわらいだ。
しかし、口内のヒリヒリした痛みは残っているそうである。
症状を要約すると、
1) 舌先、歯茎の裏が熱湯でやけどをしたようにヒリヒリ痛い
2) その症状は、 『夏になると症状がひどくなる』
3) 神経を酷使する時に、痛みが憎悪する
4) 口腔外科で、「口腔灼熱症候群(Burning mouth syndrome; BMS)」と診断された の4点である。
舌を拝見すると、炎症性の赤みはなく、表面は乾燥気味で、黄色っぽい白苔が広がっていた。
問診の後、痛みを感ずる部位と、自律神経の反応穴(五志の憂)を糸練功(しれんこう)にて分析した。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)
糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します
治療経過
0ヵ月後
愁訴部(患部)、自律神経の反応穴(五志の憂)
-0.4合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 苓桂朮甘湯 |
0.3合 | 臓腑病 | 脾 | 陰証 | 牡蠣肉製剤 |
0.5合 | 臓腑病 | 肝 | 陽証 | 抑肝散加減方 |
症状
口内・舌の灼熱感(強い)、唾液分泌(少ない)
舌と歯肉の違和感が強く、不眠傾向
6ヵ月後
愁訴部(患部)、自律神経の反応穴(五志の憂)
4.6合 | 臓腑病 | 膀胱 | 陽証 | 苓桂朮甘湯 |
7.6合 | 臓腑病 | 脾 | 陰証 | 牡蠣肉製剤 |
6.8合 | 臓腑病 | 肝 | 陽証 | 抑肝散加減方 |
症状
口内・舌の灼熱感(ほぼ消失)、唾液分泌(良好)
舌と歯肉の違和感は疲労時に軽く感ずる程度、睡眠も良好
現在も、漢方治療を継続中
結語
口腔灼熱症候群(こうくうしゃくねつしょうこうぐん)は、舌や口内にヒリヒリした灼熱感や痛みをきたすお病気です。
閉経後の女性に多く見られますが、現代医学では未だ原因は解明されていません。
組織には炎症や腫れもない・・・
しかし、「口の中が焼けるように痛い」、「舌が痛い」という 「舌痛症(ぜっつうしょう)」や、「口腔灼熱症候群」の相談は、漢方薬局では珍しいことではありません。
これは、糸練功で口腔灼熱症候群(或は舌痛症)の患者さんを解析して感じたことですが、興味深い共通点が存在します。
それは、「患者さんが痛みを訴える部位の反応と、五志の憂(ごしのゆう)の反応が同質である」 ことです。
五志の憂とは、心の状態を反映する部位(前頭部のツボ)です。
人は、大きなショックを受けると 心の動揺を生じ「桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうことぼれいとう)」等の適応症を呈することがよくあります。
その適応症が癒されないまま経過すると 不快な症状を感じるようになります。
不眠症・知覚神経障害など、人によってその症状は様々です。
現に、治療開始時のご婦人から、
1)極めて低い合数(-0.4合)に、苓桂朮甘湯の適応症
2)低い合数(0.3合)に、牡蠣肉製剤の適応症
3)低い合数(0.5合)に、抑肝散加減方の適応症
の 3つの適応症(証)が、愁訴部で確認され、それらのすべてが「五志の憂」の証と一致していました。
そのことは、「ご婦人の口内の灼熱痛は、心と連動している」ことを示唆しています。
当薬局の多くの口腔灼熱症候群、舌痛症の患者さんにも同様な傾向があります。
そして、その症状は心のバランスを正常化する漢方薬・・・
(たとえば、苓桂朮甘湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、抑肝散加減方 etc)で改善しています。
ですから、口腔灼熱症候群の背景には、精神的要因の深い関わりがあるように思えてなりません。
ご婦人の症状は順調に改善しています。
ここで治療に用いた処方は、非常にシンプルな薬方です。
とても難しいお病気のようでも、簡単な漢方処方で治せるケースは非常に多いです。
漢方治療の要は、「患者さんの病態を(漢方的に)正確に把握すること」に尽きます。
正確な治療法の選定に、糸練功は重要な役割を担っています。
(糸練功に関しては、著者の論文「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)
糸練功の理論を構築し、御教授いただいた木下順一朗先生へ、衷心より感謝いたします。
必要となった漢方薬の料金
漢方薬 | 漢方薬の種類 | 料金(30日分) |
苓桂朮甘湯 | 散剤 | 9,000円 (税別) |
牡蠣肉製剤 | 錠剤 | 10,380円 (税別) |
抑肝散加減方 (代用) | 錠剤 | 6,300円 (税別) |
※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります