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前庭神経炎?・・・耳鳴り、難聴、耳閉感と眩暈
眩暈(めまい)は、回転性・浮動性・動揺性・失神性・・・などなど、タイプ別に分類されています。
眩暈治療に関して、漢方薬は得意分野ですが、時として”傾向と対策が通用しない眩暈”に遭遇することもあります。
今回はその一例である、”前庭神経炎ではないか?”と、医師を困惑させた眩暈の治療例を紹介します。
患者さんは、50歳代前半の男性です。
6ヶ月前、”クラッとくる眩暈”を初発として、当初は週に1回ほどの眩暈が「船酔いのような感じ」として定着したそうです。
その3ヵ月後、右耳に「キーン」という耳鳴りがあらわれ、回転性眩暈が生じ、1日中起き上がれず・・・。
症状は、1.眩暈(船酔い様)、2.耳鳴り(右耳)、3.難聴・耳閉感(右耳)の順にあらわれ、
調子の悪い時には、「全身倦怠感が強く、頭に霧がかかったようで、腕が冷たく重い感じがする」とのことでした。
耳鼻科を受診し、ステロイド剤の投与で難聴は幾分改善されました。
それでも船酔い様の”フワフワ眩暈”は残存したため、大規模な病院を紹介され、MRI・CT等の詳細な検査を受けました。
しかし、検査結果は “異常なし”。
ベタヒスチン、アデホスコーワ、メチコバール、セルシンによる投薬治療・・・”フワフワ眩暈”は一進一退・・・。
患者さんが、医師に病名を伺うと、“前庭神経炎ではないか?“とのことですが、釈然としない様子だったようです。
難聴、耳鳴・・・前庭神経炎?? ドクターのお気持ちは複雑だったと思います。
フワフワの眩暈・・・半夏?・・・言葉のヒント
船酔いのような、雲の上を歩いているような、ふわふわする眩暈・・・。
このようなタイプの眩暈と聞くと・・・
陰証の病態に適応する、呉茱萸湯、半夏白朮天麻湯、真武湯などの漢方処方が、頭に浮かびます。
しかし、患者さんは、50歳代前半のガッチリ体格の男性です。
舌には、びっしりと白色の舌苔があり、内臓熱の存在が伺えます。
とても、呉茱萸湯や真武湯の適応とは思えません。
半夏白朮天麻湯、若しくは、その加減方に適応があるかもしれません。
また、問診の中で患者さんは、
「就寝時、後頭部から上腕にかけて”ピリピリ”と電気が流れるような感覚がして眠れない」
と訴えておられました。
はたして患者さんに適合する漢方処方は何か?
また、患者さんの眩暈の正体は、何種類の病態の複合体なのか?
患者さんの言葉をヒントに、”糸練功(しれんこう)”という技術を用いて、病態と適合処方の漢方的解析を行いました。
眩暈は、3つの異常の複合体・・・脳血流、自律神経、頸椎異常
生体は疾患にかかると、身体の体表部で異常な磁場を発しています。
その異常磁場があらわれる部位を、反応穴(はんのうけつ)といいます。
反応穴の異常磁場を解析し、患者さんに適合する薬剤を誘導する・・・それが糸練功という技術です。
(糸練功の技術的な要項は、専門家向けですが「糸練功に関する学会報告」をどうぞ)
患者さんの眩暈に関連する解析結果は、以下のとおりです。
(○○証という表現は、○○という漢方薬で治療が成立する病態を示します)
A証) 桂枝加竜骨牡蠣湯加減方証 (陽証)
・・・・・・眩暈・自律神経への処方
B証) 黄連解毒湯加減方証 (陽証)
・・・・・・眩暈・自律神経・脳血流への処方
K証) 桂枝二越婢一湯加茯苓蒼朮附子証 (陰証)
・・・・・・第五頸椎の異常(頸性眩暈)への処方
A証)、B証)は、眩暈の反応穴から誘導された適応です。
K証)は、頸椎異常から誘発される”頸性眩暈(けいせいめまい)”の誘因と思われます。
つまり、患者さんの眩暈は、A証)、B証)と、K証)の、「3つの異常が混ざり合った複合体」であるということです。
早速、桂枝加竜骨牡蠣湯加減方、黄連解毒湯加減方、桂枝二越婢一湯加茯苓蒼朮附子の3処方にて、漢方治療を開始しました。
“ふわふわ眩暈”の治療経過と考察
・・・0ヵ月後
眩暈: 強い (ふわふわ:船酔い様)
耳鳴り: 強い (右耳)
上腕の冷感と重圧感: 強い (両腕)
就寝時、後頭部~上腕の電気が流れるような感覚が増強する
・・・1ヵ月後
眩暈: 中程度 (改善中)
耳鳴り: ほぼ消失
上腕の冷感と重圧感: 消失
就寝時、後頭部~上腕の電気が流れるような感覚は消失
現在も、漢方治療を継続中です。
当初は、浮動性眩暈の状態から”半夏白朮天麻湯”の適応を疑いました。
が、実際の糸練功による解析では、その適応は存在していませんでした。
また、”桂枝加竜骨牡蠣湯加減方”という適応には、かなり驚かされました。
なぜなら、当薬局の経験では、眩暈を主訴とする”桂枝加竜骨牡蠣湯加減方証”の患者さんは、めったに見かけないのです。
もし、糸練功という技術を知らなければ、”桂枝加竜骨牡蠣湯加減方証”の存在は、見抜けなかったと思います。
正確な処方選定を実践できたことを嬉しく思います。
また、眩暈とは全く無関係と思える
「上腕の冷感と重圧感」
「就寝時、後頭部から上腕にかけて”ピリピリ”と電気が流れるような感覚がして眠れない」
という患者さんの言葉は、頸性眩暈を察する上で大きなヒントとなりました。
糸練功の理論を構築され、御教授いただいた 木下順一朗先生(福岡県・太陽堂漢薬局)へ感謝の念に堪えません。