胆石症と思われる腹痛

漢方薬局には、病院で「原因不明」とされた患者さんが多く訪れる。

その方々に漢方的解析を行うと、適合処方が判明していく過程で、原因不明であったはずの病態が、うっすらと見えてくることがある。

今回は、「原因不明と診断された腹痛」の改善症例を報告する。

20歳代の女性である。
5年前から腹痛を発症し、ゲップがひっきりなしに出るという。

病院であらゆる検査をしていただくが、原因も、病名も解らず。
すがる思いで総合病院の東洋医学診療科にかかると、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」を処方してくれたという。

辛抱強く服用した・・・。
しかし、症状は治まらなかったらしい・・・。

それから懸命に、ネット検索すること数ヶ月・・・当薬局を訪れた。
患者さんは”本当に困った”表情をされていた。

腹痛、背中の張り、腹部膨満感、鳩尾(みぞおち)のつかえが甚だしい。
唾液分泌が異常亢進し、口内に唾液がたまって気持ちが悪いという。
また、口苦(口内が苦い感じ)も訴えている。

当薬局は、病態の漢方的解析に、糸練功(しれんこう)という技術を活用している。
(糸練功の詳細は、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

この場合、患者さんの愁訴部(鳩尾)、胃の反応穴(背部)を確認し、異常を特定しながら適合処方を解析する。

その解析結果は、以下のとおりである。

○愁訴部と各部の反応より
●黄連湯(おうれんとう)証(A証)
●四逆散(しぎゃくさん)証(B証)

の2証が、治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥で治療が成立する意味がある。

早速、上記2処方による漢方治療を開始した。

・・・0ヵ月後
腹痛:強い、背中の張り:強い、腹部膨満感:強い
ゲップ:強い、鳩尾のつかえ:強い、唾液の異常分泌:強い

・・・1ヵ月後
腹痛:軽度、背中の張り:軽度、腹部膨満感:軽度
ゲップ:軽度、鳩尾のつかえ:軽度、唾液の異常分泌:軽度

一連の症状は、改善傾向にある。
が、胃の反応穴に「新たな」生姜瀉心湯(C証)の適応を確認。
”まさか!”と思い、胆嚢の反応をチェックすると・・・
強い金銭草系(きんそうけい)証(D証)を、確認する。

また、当初から訴えていた首痛(愁訴部)を解析・・・。
第五頚椎に 桂枝一越婢二湯(K1証)の適応を確認する。

従って、治療方針の変更を検討。

●桂枝一越婢二湯(けいしいちえっぴにとう)証(K1証)
●黄連湯(おうれんとう)証(A証)
●金銭草系(きんせんそうけい)証(D証)

以上の3処方により、治療を継続。

・・・2ヶ月後
腹痛:消失、背中の張り:消失、腹部膨満感:消失
ゲップ:軽度、鳩尾のつかえ:軽度、唾液の異常分泌:消失

2ヵ月後には、症状はほぼ消失する。
が、調子が良いことを理由に服用をサボる。

それから3ヵ月後、症状が再発・・・本人は焦って服用を再開。

現在
服用を継続中。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

「原因不明とされた腹痛」への漢方薬による改善例です。

一応、「原因が解らない」と言われた患者さんです。
しかし、もし他のドクターに縁があったら、結果は違っていたかも知れません。

漢方薬局の仕事は、患者さんに適合する漢方薬を提供し治癒へ導くことです。

誤解される方がいますが、我々の追究するのは適合処方です。
病名は参考にすぎません。

ただ、今回のケースを適合処方から辿っていくと・・・。
「胆石(もしくは胆砂)じゃないの?」
と思えてなりません。

なぜなら、患者さんから解析された「金銭草系の適応」は、”石持ち”・・・。
いわゆる結石を有する方の特徴だからです。

腎結石の患者さんには、腎臓にその適応が強く現われます。
本症例は、胆嚢にその反応がでています。
決定的なのは、金銭草系の服用で急速に症状が和らいでいることです。

これらを総合すると「やっぱり、胆石症じゃない?」と感じます。
まあ、何はともあれ、間違いなく効いているから良いのです。

ですが・・・若くて遊び盛りの患者さん・・・。
症状が軽くなると、服用をサボります・・・。

「中途半端に、服用を止めると再発するよ」
と、伝えていたにも関わらず。

服用を中断して 3ヵ月後・・・。
症状がぶり返すと、”本当に困った”表情をして来局されました。

もし、胆石症の方がこのページをご覧になっていたら、御予約の前に御熟慮ください。
胆石症は、再発しやすいのです。
症状が軽減しても、その状態は完治ではありません。
治療途中であることを忘れないでください。

漢方薬の卒業は、再発の危険のなくなった時。
御自身の自然治癒力が満充電になった状態を指します。

それまでは、継続しなければなりません。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
桂枝一越婢二湯散薬12,000円
(税別)
黄連湯散薬12,000円
(税別)
金銭草+茯苓
(50日分)
煎じ薬5,500円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります