げっぷ・腹部膨満感・下痢・腹痛を伴う胆管結石

ある家庭医学のサイトには、
「胆石症(胆管結石)が、げっぷ、腹部膨満感を引き起こすことはありません。」
と書かれている。

確かに、胆汁は胃の出口(幽門)より下流の十二指腸へ注がれる。
胆管結石による胆汁分泌障害は、その上部の胃に影響するとは考えにくい。
だから「胃内のガス(げっぷ)は胆石の影響を受けない」というのであろう。

しかしながら、当薬局に訪れる胆管結石の患者さんの多くは、「げっぷ・腹部膨満感」を訴えている。
そして、胆管結石を消失させる漢方処方により、同症状は改善している。

また、胆管結石には、柴胡剤である「四逆散(しぎゃくさん)」への適応例も存在する。
四逆散が適応する病態には、腹部膨満感を呈しない方は少ない。

そのような理由から、日々、胆管結石の患者さんに接する我々が「胆管結石が、げっぷ、腹部膨満感を引き起こすことはありません。」の記述を見た時の感想は、「へ~」である。

そこで、今回は胆管結石の患者さんの腹部膨満と下痢が、漢方治療によって改善していく過程を報告する。

患者さんは、20歳代後半の女性である。
2年前から腹痛と下痢に悩まされ、病院で胆管結石を指摘されていた。
当時、胆管結石の処置はされず、「整腸剤などの処方で落ちついていた」という。

しかしその後、腹鳴(腹がゴロゴロ鳴る)と共に、臍を中心とした腹部の膨満が頻発した。
鳩尾(おぞおち)の痞え(つかえ)感、ゲップも甚だしくなり、漢方治療を頼られた。

問診からの漢方的所見では、瀉心湯(しゃしんとう)系の適応が窺われる。
病院の「胆管結石」との診断も、ありがたかった。

おそらく、胆のう部には「金銭草系(きんせんそうけい)の適応」が確認されるだろう。
その推測の正否は、患者さんの反応穴(はんのうけつ)を確認し、適合処方を解析する過程で明らかとなる。
その解析方法として、当薬局は糸練功(しれんこう)という技術を活用している。
(糸練功に関しては、著者の論文「糸練功に関する学会報告」を参照されたい)

この場合、腹部膨満には愁訴部(腹部)と、胃の反応穴(背部)。
下痢には、大腸の反応穴(腰部)。
そして、胆管結石には、背部より肝臓・胆のうの反応を確認する。

解析結果は以下のとおりである。

○愁訴部と各部の反応より
●半夏瀉心湯加茯苓(はんげしゃしんとうかぶくりょう)証(A証)
●安中散加茯苓(あんちゅうさんかぶくりょう)証(B証)

○胆のうの反応より
●金銭草系(きんせんそうけい)証(C証)

以上の3証が治療を要する低い合数で確認された。
「○○証」との表現は、○○という漢方藥で治療が成立する意味がある。

解析結果における 金銭草系証(C証)は、胆道内の異物を暗示している。
胆石(若しくは胆砂・胆泥)の可能性が大である。

半夏瀉心湯加茯苓証(A証)は、胆道内の異物により胆汁分泌が阻害された為に生じた、「脂質消化の滞り」と推測する。

また、安中散加茯苓証(B証)は、胃アトニーと胃内停水の病態を反映させた適応で、それは甘味の摂取により悪化する特徴がある。

ここで注視すべき点がある。
患者さんのA証は炎症性のカタル型に属するが、B証はアトニー型の病態である。
つまり、同一の身体に相反する適応が混在していることになる。

早速、3処方にて漢方治療を開始した。
症状の推移は、以下に記す。

・・・0ヵ月後
下痢:3回/日
腹痛:強い
腹部膨満感:強い
ゲップ:多い

・・・1ヵ月後
下痢:0~1回/日(たまに1回/日の軟便)
腹痛:消失
腹部膨満感:消失
ゲップ:消失

以降、7ヶ月間の服用を継続後、治療を終了する。


糸練功の指標(合数)
合数の数値は、-1.0~10.0 の範囲で表わされ、
病態の要因である“異常ポイント”を意味します。
※症状が重いほど合数は低く改善と共に上昇します


実践漢方のコメント

胆管結石(胆石症)に伴う、腹部膨満感・下痢への改善例です。

2年前から発症した、腹部膨満感・下痢等の症状は、漢方薬の服用後 1ヵ月後 には治まっています。

単なる急性の腹部症状であれば、そこで治療を終えても、さほど問題はありません。
ですが、本症例はしっかり治しておく必要があります。
なぜなら、この疾患には患者さんの体質そのものが関わっているからです。

体質的要因は、大別すると2つです。

1つ目は、胆汁が欝滞しやすく、胆管結石を生じやすい体質であること。
胆道に詰まった胆石は、胆汁の流れを邪魔して脂肪(油)の消化不良を起こさせる。
そうなると、腸内環境は悪化して、臭気の強い脂溶性便(油っぽい便)になりがちです。
半夏瀉心湯加茯苓(A証)と、金銭草系(C証)は、それを治すための適用です。

2つ目は、もともと持っている胃アトニー体質。
患者さんには、安中散加茯苓証(B証)が確認されています。
平素から胃酸の働きが弱く、食物の消化吸収が円滑にできません。

女性は”甘いもの”を好む傾向があります。
ですが、この体質はチョコレートや饅頭などの甘味を食べると、途端に胃腸の具合が悪化します。
ですから、「安中散系の適応」=「甘味を控える」というのが養生の鉄則です。

ここで一言。
慢性病は、体質に合わない生活の積み重ねが、誘因になることが多々あります。
元来、個々が有する遺伝子は、先祖から長い年月をかけて環境・食性に順応するように創られています。
古来から日本人は、脂質(油)の摂取が少ない民族でした。
その歴史からも、脂質の消化吸収が苦手な遺伝子を受け継いでいるはずです。

ですから、胆管結石を克服するには、今一度、食生活を考え直すことが必要です。
朝食は、バターたっぷりのパンに、ベーコンエッグではなく、ご飯に味噌汁を基本とした日本食に替えることも重要です。

ここに紹介した患者さんも、食を見直し、実践されました。
それほど食養生は、疾患を乗り越える上で、とても大きな役割を果たします。


治療に要した漢方薬と費用

漢方薬漢方薬の種類料金(30日分)
半夏瀉心湯加茯苓散薬12,000円
(税別)
安中散加茯苓散薬11,000円
(税別)
金銭草系生薬
(50日分)
煎じ薬5,500円
(税別)

※ 適合する漢方処方は、個々の患者様により異なります